2021 Fiscal Year Research-status Report
ベトナム刊行仏典よりみる近世近代東アジア仏教典籍刊行史の研究
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20K01029
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
宮嶋 純子 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (80612621)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ベトナム仏教史 / 東アジア仏教史 / 仏典刊行史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、20世紀以前にベトナムで刊行された漢文仏教典籍を手がかりとして、近世・近代東アジア地域における仏典刊行史及び仏教文化交流史の実態を解明することを目的とする。今年度は、昨年度に引き続き、現存するベトナム刊行仏典について、主として序跋・刊記に記載の情報に基づき、典籍個々の刊行史の整理作業を行った。新型コロナウイルスの流行により現地調査が実施できなかったため、整理作業に用いたのは、代表者がこれまでの調査で得たベトナム北部・バクザン省ボーダー(補陀)寺所蔵典籍に関する写真資料と、インターネット上で一部公開・利用が可能な、ベトナム漢喃研究院・フランス極東学院所蔵等のベトナム刊行仏典である。 科研費研究会(研究代表者:八尾隆生、9月18日オンライン開催)の研究報告においては、阮朝明命期~嗣徳期にかけてハノイ・バクニン地域で活動した高僧、福田和尚安禅(1784?~1863?)の仏書刊行と教化活動、及び時の政権官僚との協力関係を考察した。 福田は多くの仏教書、特にベトナム内外の仏教史書の刊行や著述を手掛けたことで知られ、後黎朝後期(18世紀)以降のベトナム仏教史の基礎的な理解については、かれの伝えた典籍に拠る所が大きい。福田は複数の寺院の住持を転々としながら、各地でこれら仏教典籍を刊行した。一般に中部フエに都を置いた阮朝は、とりわけ北部仏教界との関係が薄かったとされるが、福田の遺した同時代史料に拠れば、河寧総督阮登楷(?~1854)を始めとする北部地方官僚たちは積極的に福田の出版・教化活動を支援していた。阮朝初期で統治体制が不安定であった北部地域を慰撫するために、地方官僚と仏教教団が協力関係にあった一面を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ベトナムで刊行された仏典のうち現存するものは、主としてベトナムの研究機関、在ハノイの漢喃研究院や国家図書館等に所蔵されている。これらの典籍資料については目録が公刊されているものの、テキストの本文については、極一部が公刊されているのみであり、基本的には現地でのみ閲覧が可能である。また、ベトナム各地の諸寺院が独自に所蔵する典籍資料や、木版版木も多く存在している。 当初の研究計画では、これらの資料の総合的な把握のため、ベトナムにおける実地調査を主たる活動として位置付けていたが、新型コロナウイルスの世界的流行に伴い昨年度より今年度にかけてベトナム渡航が不可能であったため実施できていない。そのため本研究課題の進捗は「遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A)・課題番号19KK0298)により、2022年3月より23年3月まで、ベトナム社会科学院宗教研究院において調査研究を実施するため、2022年度中は本課題の研究を中断する予定である。 研究再開後、自由な海外渡航が可能な状況となっていれば、東アジア各国の諸機関・寺院に所蔵される典籍資料を実地調査し、中国・朝鮮・日本・ベトナムで刊行された漢文仏典の比較研究を行うことで、近世近代東アジア仏教典籍刊行史の包括的な把握を目指したい。
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Causes of Carryover |
今年度は、ベトナムを対象とする現地調査を中心に使用計画を立てていたが、昨年度に引き続き新型コロナウイルスの流行により海外渡航が不可能となり、主に旅費及び書籍購入費・資料複写費用として計上していた金額についてほとんど執行することができなかった。 次年度は海外滞在による研究中断の予定である。 研究の再開後の使用額については、研究課題の性質上、現地調査による典籍資料の実見が不可欠であるため、再び旅費及び書籍購入費として計上し、中国・韓国・ベトナム等における調査の実施と資料の収集を実施したい。
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Remarks |
研究報告:宮嶋純子「阮朝初期の北部仏教界について―福田和尚安禅の仏書刊行と教化活動―」科研費研究会(研究代表者:八尾隆生、課題番号21H00577)、2021年9月18日オンライン開催
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