2021 Fiscal Year Research-status Report
近世フランスの書簡と公共空間:オーラルとエクリの間
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20K01033
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
長谷川 まゆ帆 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60192697)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | オーラル / エクリ / 歴史叙述 / 啓蒙 / 公共性 / 意思決定 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も、海外での文献調査を予定していたが、パンデミックにより海外渡航が難しく、海外へ赴くことを差し控えざるをえなかった。代わりに、フランス国立図書館等のネット上の文献や国内の図書館所蔵の文献を入手し、本研究課題に必要な研究蓄積を探索し、情報を収集を行うとともに、関連する論文を発表した。本研究課題との関連で、今年度の成果として挙げられるのは、以下である。 ①共著(国際):Western Historiography in Asia: Circulation, Critique and Comparison, Q. Edward Wang, Okamoto Michihiro, Li Longguo eds., De Gruyter Oldenbourg, 2022, 657p., Hasegawa Mayuho, "Hayden White and the Historians: A Historical Narrative in Time", p. 367-394. 本稿は、海外の研究者と歴史叙述をめぐる動向を共有するのために作成したものだが、歴史叙述の身体性を論じており、本研究課題である啓蒙期の歴史叙述を考えるうえで必要な、研究方法やパースペクティヴについて考察している。 ②雑誌論文:「近世フランス農村における「多数決」について;一七七四年マコン小教区の村総代選出における紛糾事例」『地域文化研究専攻 紀要 Odysseus』XXVI, 2022年, 1-25頁.本稿は18世紀のシャンパーニュのある小教区での紛争を史料に基づいて考察した個別論文である。オーラルとエクリの問題を論じ、18世紀の人間の意思決定、身体、紙について考察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一つは、上記にも触れたように、海外での文献調査が全くできなかったことによる。パリおよびナンシーの図書館での調査を予定されていたが、令和3年度にもそれがかなわず、先送りとなった。 もう一つは、今年度に予定していたグラフィニー夫人の書簡集(15巻 印刷版)の購入が、諸事情によりかなわなかったことである。理由は、販売元の仲介会社のとの連絡がうまく付けられず、購入のための手続きが思うように進まなかった。この書簡集は、インターネットでの参照や、国内の図書館等に所蔵されているものを利用することは可能であり、今のところそれでなんとか間に合わせてはいるが、断片的な扱いになるため、できれば印刷されたもので全巻を入手し手元におく必要がある。令和4年度に予算的な余裕があるなら、再度、購入を試みる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
パンデミックがそろそろ終息に向かっていることもあり、令和4年度にはぜひとも海外での文献調査をはたし、個別研究の執筆に向けて取り組む予定である。当初予定した文献を入手するとともに、グラフィニーなど18世紀の公共空間に活躍した女性の文筆家の営みを調査する。そのうえで、男性の文筆家や有力者との関りや影響関係を明らかにし、チャート化を試みる。 その際、人的な交流、影響関係に着目したい。グラフィニーはヴォルテールやルソーなどとも親交があり、独学の学者バランタン・ジャムレ・デュヴァルなどとも交流があった。大国の狭間にあったロレーヌならではのソシアビリテに着目したい。デュヴァルなど関連文献の探索が不可欠である。 さらにボーリングを考えているのは、オーストリー継承戦争(1740-1748年)とグラフィニ―夫人の関りについてである。グラフィニ―夫人が『ペルー人女性の手紙』で小説家としてデビュしたのは1747年で、パリに至った1739年以降はまさにこの戦争とともにあった。一方、マリア・テレジアの夫となったトスカナ大公は元ロレーヌ公であり、夫人は彼がトスカナ大公に退いてからも親交を続けていた。最後のロレーヌ宮廷に仕えていたグラフィニ―夫人にしてみれば、この戦争における自身の位置どりは微妙であったはずである。ロレーヌ宮廷時代の知人もフランス側について従軍している。ロレーヌに最後まで愛着を抱き続けていた彼女がこの戦争をどのように眺め、戦争や国境をそれ自体いかに感じ考えていたかは、啓蒙期の公共空間と書簡の関りを感情史の観点から考える上で重要なポイントとなる。これも書簡集の情報をもとに、その時代の情報ソースがいかなるものであったかなど、パリ国立文書館等の新聞、雑誌、論説などの情報とも突き合わせて検討していく。またこれに関して、国内外のフランス史の専門家との意見交流を通じて、この時代の戦争理解を深めていく。
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Causes of Carryover |
海外調査ができず、そのために使用する渡航費、滞在費などが思考できなかったことによる。
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Research Products
(2 results)