2020 Fiscal Year Research-status Report
「民衆」のロスアンジェルスー共振する都市の〈関係史〉
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20K01034
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
土屋 和代 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60555621)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ロスアンジェルス / アメリカ合衆国 / 人種・エスニシティ / 階級 / ジェンダー / 都市 / 歴史学 / 社会史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず、①1848年のグアダルーペ=イダルゴ条約から1992年のロスアンジェルス蜂起に至るまでの、ロスアンジェルスにおける格差の拡大と人種化のプロセスについて小論にまとめた(「格差社会アメリカ―『多人種都市』ロスアンジェルスの歴史から」矢口祐人編『東大塾 現代アメリカ講義―トランプのアメリカを読む』所収)。さらに、②警察や自警団員の暴力によって黒人の命が奪われつづけてきたことに対する抗議行動とした起きたブラック・ライヴズ・マター(BLM)運動が掲げる「投資―脱投資(警察・刑務所・刑事司法制度の予算を削減/脱投資し、教育・雇用・住宅・医療・コミュニティに暮らす人びとのために投資する)」というスローガンが何を意味するのかを分析した。特に刑罰国家の拡大期にいかに福祉国家が後退を迫られたのか、そして黒人女性の身体がどのように監視(ポリー)・取締り(シング)の対象となったのかに焦点をあてた(「刑罰国家と『福祉』の解体―『投資―脱投資』が問うもの」『現代思想』所収)。③BLM運動が今日のアメリカ社会にどのような「問い」を投げかけているのかを、1992年のロスアンジェルス蜂起から考えた。このLA蜂起から今日まで通底する問題は何かを、警察暴力と「貧困という暴力」に焦点をあて検討した上で、今日のBLM運動にはどのような新しい特徴がみられるのかについて東京大学アメリカ太平洋地域研究センター(CPAS)主催の公開シンポジウム「分断のアメリカを展望する」で報告し、小論にまとめた(『アメリカ太平洋研究』21号(2021年)、7-19頁)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記した三論文・報告に加えて、④脚本家で俳優のアナ・ディーバー・スミスが1992年のロスアンジェルス蜂起を描いた作品『薄明かり―ロスアンジェルス、1992』についての小論を加筆修正し、英語論文にまとめた。⑤アメリカ西部におけるもっとも古い黒人新聞のひとつ『カリフォルニア・イーグル』の編集者兼発行人を40年にわたり務めたシャーロッタ・バスについて論文を記した。バスがどのように人種隔離、警察暴力、排外主義、性規範、軍国主義を問い、二〇世紀前半のロスアンジェルスにおける黒人自由闘争を牽引したのかを考察した(彩流社より刊行予定の論文集に所収予定である)。⑥組合活動家でありアメリカ共産党員だったエミール・フリードが設立し、労働運動、黒人解放運動、移民の権利擁護、女性解放運動等に関連する文書史料、書籍、雑誌、パンフレット、視聴覚資料を保管する社会研究調査のための南カリフォルニア図書館についてコラムを執筆した(同書に所収予定である)。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は新型コロナウィルスの感染拡大により米国で研究調査、史料収集を実施することが出来なかった。今年度はこれまでに収集した史料を活用しつつ、必要な史料、文献を取り寄せ、研究を進める予定である。 まず、公民権、組合、環境活動家のエリック・マンによって創設された「バス・ライダーズ・ユニオン」の活動について調べる。また、メキシコ系アーティスト、教育者、活動家のジュディス・バカに関する研究書も読み進める。バカが世界最長の壁画「グレート・ウォール・オブ・ロスアンジェルス」を通してどのようにロスアンジェルス、カリフォルニア、アメリカ社会像を描いたのか、「民衆」のためのアートを生み出したのかを検討する。 新型コロナウィルスの感染状況が改善した際にはロスアンジェルスで研究調査を実施したい。
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Causes of Carryover |
2020年度は新型コロナウィルスの感染拡大により、米国で研究調査、史料収集を実施することが出来なかった。今年度はこれまでに収集した史料を活用しつつ、必要な史料、文献を取り寄せ、研究を進める予定である。新型コロナウィルスの感染状況が改善した際にはロスアンジェルスで研究調査を実施したい。
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