2022 Fiscal Year Research-status Report
Westintegration and Nationalism in the Adenauer Era: The "small Reunification" of Saarland
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20K01035
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
芦部 彰 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 講師 (00772667)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 西ドイツ / 領土 / ザールラント / カトリシズム / ナショナリズム / 欧州統合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度にザールラントにおけるドイツ帰属派の主張を検討したことをふまえ、さらにザールラントの地域社会の動向とドイツ帰属派の主張の関係を探るため、フランスの政策に対する地域社会の反応を検討した。一般的にフランス文化に対し好意的な反応が見られた一方で、初等教育からフランス語教育を試みた教育政策、ドイツとは異なるザール・アイデンティティを形成しようとしたスポーツ政策、ドイツの教会の影響を遮断しようとした教会政策など、地域社会の日常に介入する政策の多くは反発をまねいていた。とくに教会政策の検討からは、カトリック住民の比率が高いザールラントにおけるカトリック教会の影響力の大きさが浮き彫りになった。なかでもトリーア司教ボルネヴァッサーは、1935年の住民投票時にもドイツ帰属を主張しており、昨年度に続いて1935年住民投票と戦後の動向の関連が明らかとなった。 本年度は本研究課題の三年目であり、過去二年の成果を踏まえつつ、最終年度となる令和5年度に向けて研究の焦点を絞り込むための検討も行った。一昨年度に西ドイツの全ドイツ問題相カイザーとザール自治政府首相ホフマンの「ヨーロッパ化」およびナショナリズムをめぐる考え方の相違に注目したが、両者はともに反ナチ抵抗活動家であり、それに加えてカトリック政治家という共通点があった。本年度の考察で明らかになったカトリック教会の役割とあわせ、カトリック政治家とナショナリズムとの関係の考察をより深めることが論点としてあらためて浮上した。具体的には、ザールラントのドイツ帰属派を支援した全ドイツ問題相カイザーに即して、その主張のロジックに注目する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題における最初の二年に比べ、大きな遅延をともなわず、日本から研究文献を購入したり、同時代刊行物などの史料を入手したりすることができたが、その一方で、ドイツの文書館での史料調査は行えなかったため、研究に利用できる史料は国内で入手可能か閲覧可能なものに限定されることになった。三年目をむかえた本年度は、昨年度までの考察をさらに深めることと、研究課題全体としての論点の絞り込みが中心となったが、その作業には未刊行の文書館史料の検討が不可欠であり、文書館史料の調査を実施できなかった点で、この作業の進展に限界が生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に申請時の研究計画にしたがって研究を進める。令和5年度には、ここまで実施できていないドイツにおける文書館史料の調査を行う。この点について、日本から入手できた同時代刊行物などの史料を検討してえられた成果を活かし、考察の焦点を明確化し、文書館で調査する史料を絞りこむことで、ドイツでの史料調査を効果的に進める。さらに、未刊行の文書館史料の分析を進めることで、ここまでの研究期間で十分に詰め切れずにいた考察の空白を埋め、具体的な研究成果の公表につなげる。
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Causes of Carryover |
当初の計画案で予定していたドイツの文書館での史料調査を実施できなかったため、このための出張旅費分が未使用となった。この分は研究文献の購入や日本から入手可能であった同時代文献など史料の収集に使用し、研究遂行に活用したものの、次年度使用額が生じることになった。次年度にドイツの文書館で史料調査を行う際に、当初予定していた旅費に次年度使用となった分を加え、史料調査を円滑に実施できるよう使用する。
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