2023 Fiscal Year Research-status Report
Westintegration and Nationalism in the Adenauer Era: The "small Reunification" of Saarland
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20K01035
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
芦部 彰 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 講師 (00772667)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ザールラント / 西ドイツ / フランス / 国民国家 / 欧州統合 / 住民投票 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、これまで実施できずにいたドイツでの史料調査を夏期に行うことができた。調査では、ザールラントの「ヨーロッパ化」案に対し異なる態度を示した政治家を対象とした。同案を推進した政治家として、ザール自治政府首相ヨハネス・ホフマンの個人文書や書簡をアデナウアー財団のキリスト教民主政治文書館で収集した。他方で、同案に反対しドイツへの編入を主張した政治家として、コプレンツ連邦文書館で西ドイツの全ドイツ問題相ヤーコプ・カイザーの個人文書を、ザールラント州立文書館ではザールラントにおいて自治政府に反対する勢力の指導者であったハインリヒ・シュナイダーの手になるパンフレットや選挙演説の草稿などを収集した。 これらの史料の分析から、両陣営を分かつものとして、国民国家とヨーロッパをめぐる考え方の相違が浮き彫りになった。ホフマンらは、第二次世界大戦の惨禍は国民国家の時代の終焉を示すものと考え、国民国家を超える政治共同体創設の先駆けとなるものとして「ヨーロッパ化」を推進した。他方で、カイザーやシュナイダーは、欧州統合も国民国家をベースとするものととらえ、国家間の平等を重視し、ドイツだけが領域を提供する「ヨーロッパ化」案に反対した。その際に、同案を「真のヨーロッパ化」ではないと批判するなど、あくまでヨーロッパを肯定的にとらえる姿勢と組み合わせながらナショナルな主張を展開しており、同時代のナショナリズムの特徴の一端を明らかにすることができた。 その一方で、ドイツやザールラント内部の議論だけでなく、フランスとの関係を含めた考察は十分には行えなかった。この点に関しては、「ヨーロッパ化」案をめぐり最終的に住民投票が行われた点に注目し考察を深めたい。住民投票という決定方式をとることになった背景について、フランス、西ドイツ、ザールラントでどのような議論がなされ、どのような思惑が存在したのかを検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題において当初予定していた海外での史料調査を実施することができず、令和5年度に初めてドイツで史料調査を行うことができた。この間、研究文献を収集し先行研究の整理を行い、刊行史料集や同時代刊行物など日本からでも入手可能な史料を用いて考察を行うことができた。その一方で、そうした研究の中で浮上した論点には、海外での文書館に所蔵されている史料の分析が必要なものもあった。この調査が行えなかったことで、当初の計画よりも研究の進展は遅れることとなった。 本年度、ドイツでの史料の調査と収集を実施することができたため、史料の分析を進めることで、研究を進め深めることが可能になる。ただし、いまだ個別の論点の検討の段階にあり、当初予定では最終年度にあたる本年度に計画していた、論点のとりまとめと成果の総合は、「補助事業期間の延長」を申請し承認された次年度に行う。
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Strategy for Future Research Activity |
前項で述べたように、まずは令和5年度に実施できた文書館調査で収集した史料の分析を進め、これまで浮上していた論点の考察を進めるとともに、「補助事業期間の延長」によって令和6年度に行うことになった、本研究課題全体のまとめを今後進める。 そのためには、本年度に収集した史料をもとに西ドイツとザールラントで行われた議論の考察を進めることと並行して、フランスとの関係をふくめ、より広い文脈に位置づけてザールラント帰属問題を検討することが今後の中心的な課題となる。すでに述べたように、この課題には、帰属問題をめぐり実施された住民投票に注目しつつ取り組む。 特に、領域帰属に関し実施された他の住民投票の事例を参照し、それらとの異同を考察することで、ザールラント帰属問題の特徴を明確化することを目指す。これに関して、史学会例会シンポジウム「近現代西洋における領域の帰属とレファレンダム」の準備を行い、また同シンポジウムでザールラント帰属問題での住民投票に関する研究報告を行ったことで、そうした他の事例との異同を検討する機会をえた。ここでえた知見を今後の研究に活かすとともに、研究成果を論文として発表する。
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Causes of Carryover |
当初の計画案で予定していたドイツの文書館での史料調査を実施できなかったため、このための出張旅費分が未使用となった。この分は研究文献の購入や日本から入手可能な同時代文献など史料の収集に使用してきた。さらに令和5年度には、本研究課題で初めて史料調査を実施することができ、出張旅費を研究遂行に活用したものの次年度使用額が生じることになった。「補助事業期間の延長」によって、令和6年度に行うドイツでの史料調査に次年度使用額を使用する。
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