2020 Fiscal Year Research-status Report
Fundamental change of Catholic theological idea of reason on the research of early modern Western "Mirror of Prince"
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20K01038
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
皆川 卓 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (90456492)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石黒 盛久 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (50311030)
甚野 尚志 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90162825)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ポリクラティクス / 実践神学 / 旧約聖書の援用 / 神との契約 / 正しい暴力・平和 / アウグスティヌス正戦論 / スコラ学以前への回帰 / 情念の理論化 |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者の皆川は、対象となるアダム・コンツェンの君主鑑『政治学十書』の「正しい平和」の観念を分析し、その根拠としてアウグスティヌスの「正戦論」が重視される点を解明した。平和の本質は永続性であり、人々の認識の一致を必要とするが、人々を永続的に一致させるのは正義であり、その基準は誤謬なき神への理解である。従って欺瞞を含むシンクレティズムは平和をもたらさない。これがコンツェンの平和論の根幹であり、ここではスコラ学のアリストテレスの調和的正義がアウグスティヌスによって相対化されている。分担者の甚野は、分担テーマの中核的著書であるファン・デ・マリアナの『王と王の統治について』の暴君放伐論を、中世盛期のジョン・オヴ・ソールズベリの君主鑑『ポリクラティクス』のそれと比較し、形式・内容共に共通点が多いことを明らかにした。すなわちマリアナの傍訓放伐論は政治哲学という自立したジャンルではなく、神学的な実践哲学の理論的枠組みにおいて論じられ、スコラ学成立前夜の百科全書的な神学的伝統に依拠していると言える。同じく分担者の石黒は、マキャヴェリの君主鑑『君主論』『政略論』における政治的暴力の正統性を分析し、それが従来から指摘される古典による例証のみではなく、旧約聖書における政治的・宗教的指導者(預言者)の権力行使の有り様によって正当化され、さらにそのメタ正統性として神との契約が存在することを突き止め、理論の中にスコラ的な正統性とも古典古代の理論とも異なる、キリスト教の非宗教的解釈が含まれることを解明した。三者の研究はいずれも、当該時代のカトリック君主鑑には13世紀以来のアリストテレス主義的スコラ学とは異なる部分がクローズアップされていることで一致した。これらの研究は以前よりに準備に基づき、2020年度の研究に基づいて最終調整の上、年度末にドイツの出版社により研究論文として出版されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度はCOVID-19の流行のため、海外出張は不可能であり、国内都市間の移動や接触も緊急事態宣言や各勤務校の指示によりしばしば制約を受けたため、それぞれの校務のオンライン対応など平時では想定していない業務の繁忙さと相まって、研究活動は大いに不自由なものとなった。具体的には①君主鑑の成立背景を探るための一次史料・文献の収集が海外渡航の不可のため全く未着手であり、それを前提にした分析の段階にも進めず、分析で解明された点の(特に社会的)背景を、渡航によって直ちに調べることも困難であった結果、構想は構想に留め、時間を空費せざるを得なかったこと、②共同研究がメールまたはオンラインによる接触以外には方法がなく、そのような方法による研究の不慣れもあって、テキストの共同比較分析のように、集中的議論を必要とする作業が出来なかったことである。しかしそれにも拘わらず、本来の2020年度の研究計画は、もともと各研究者の研究蓄積を再検討し、従来の政治哲学史では未解明の理論上の共通点や全体的傾向の析出に重点を置いて立てられていた。そのため研究のために振り向ける予定であったエフォートを活用しきれず、最初の予定以上には進展させられなかったが、各研究者が個別的に行うテキストの再検討や他文献との比較は十分に行うことができた。従って2020年度分の研究目的は、予定されていた海外渡航の実施不可によって実証レベルに不十分な点はあるとはいえ、研究実績の概要にあるように、辛うじて当初計画を達成し、2021年度の研究計画のスタンバイ状態にあるといえる。オンライン使用に関わる問題もおおよそ解決し、内容的な進捗状況に関する限り、現時点では研究期間の延長の必要は考えていない。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に十分でなかった情報交換、共同検討については、オンラインの使用環境と習熟により、今後はオンラインを通じて十分可能であると考えられる。ただし問題は、1年以上経った現在でも海外渡航が制限され、予定どおりに一次史料の収集と操作にスムーズに移行できない可能性が極めて高いことである。すでに現時点でも一次史料の不足を、先行研究やネット上から入手可能な史料から当該君主鑑の思想的・社会的背景を推定することで補っているが、感染症流行前の状況に比べ実証性において到底十分とは言えない。仮に2021年度後半に海外渡航が可能であるとしても、それによって収集した一次史料・文献を読み重ねて機能的に結論を出すのでは間に合わず、一般理論からの推定を裏付ける形でそれらを活用するしかない。すでにそれを想定し、本来なら現地の文書館、図書館で探すか現地研究者との密な情報交換を通じて教示されれば問題なく解決するところであるが、ネットのacademia.euやgoogle.books等で逐一周辺資料を探り出し、それを元に非効率ながら仮説の構築と現地協力者とのオンライン情報交換によるアセスメントを試みている。しかし2021年度中に全く史料の渡航収集が不可能であるならば、仮説の裏付けは予定どおり進まないことは明らかであり、また現地研究者の招聘と意見交換によってその学術的評価も確認出来ないため、研究期間延長の申請もやむを得ないと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年度後半に予定していた海外調査が感染症流行のために全く実施できず、その渡航費用がそのまま次年度使用額に繰り越された。2021年度現在も感染症流行による渡航制限は継続しているため、時期についてはなお不透明なところがあるが、公的な渡航制限および研究従事機関による制限が解除され次第、2021年度中に予定されていた海外渡航を実施する。ただし感染症流行の状況に変化がない場合、2022年度に再延期することもありうる。その場合仮説の裏付けが大幅に遅れるため、研究期間自体の延長、2022年度に予定していた使用計画の繰り延べも排除できない。
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