2021 Fiscal Year Research-status Report
Fundamental change of Catholic theological idea of reason on the research of early modern Western "Mirror of Prince"
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20K01038
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
皆川 卓 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (90456492)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石黒 盛久 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (50311030)
甚野 尚志 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90162825)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 終末論 / 君主の暴力 / 「君主」の階層性 / 「(普遍)帝国」と「国家」 / 偽メトディウス / フランチェスコ・ヴェットーリ / チーロ・スポントーネ / ヴィルジリオ・チェパーリ |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者の皆川は、コンツェンの『政治学十書』のテキスト分析を進めると共に、対抗宗教改革と政治的暴力、君主像の関係を構造的に把握するため、1605年列福されたイエズス会の一修練士の背景にある政治権力とカトリック・プロパガンダの関係を分析し、論文「アロイジオ・ゴンザーガの『殉教』と聖化」にまとめた。またその過程で影響を与えたチーロ・スポントーネの君主鑑『君主の冠』(1590)の内容とその政治的影響を照合し、対抗宗教改革下の複合的統治体制が古典の権謀術数的な「政治の技術」をメタ認知化し、その正当化論理に包摂していたことを確認した。分担者の甚野は、17世紀初頭にも登場し、西中欧の宗派対立を加速した「終末論」のカトリック教会における中世的起源に注目し、従来西欧世界をカトリック世界化する契機として理解されていた1000年の「終末」ではなく、その2世紀以上前から続くビザンツとフランク両聖職者の間で続く交流、とりわけ聖地のギリシア教父とカール大帝の直接的交流の中で導入され、そのキリスト教的ローマ帝国構想に利用された可能性を、論文「カール大帝は『終末の皇帝』か?」で解明した。分担者の石黒は、マキャヴェッリが『君主論』『ディスコルシ』の統治者像を形成した過程を示す第一級の史料として知られる『ヴェットーリ書簡』を翻訳した。そこからは古典の現実主義的解釈によって展開される政治情勢分析が、イタリア内部における政治的アクターの平等な諸関係に限定されていたことが分かる。以上の諸研究を付き合わせた結果、16世紀から17世紀前半においても、カトリック世界の君主鑑で語られる理想的君主像は、主権国家のそれの萌芽を示してはいるが、全体として見れば普遍的キリスト教世界の中で序列化された君主像のそれであり(つまり理念の転換はない)、普遍的秩序から個別的秩序へのテーマの変更という方法の転換が決定的であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2021年度も昨年度に引き続きコロナが流行し、年度を通じて海外渡航制限が課されたため、予定していた一次史料の必要な収集も、現地研究者による聞き取りも出来なかった。とりわけマイクロフィルム化している17世紀の手書き史料のデジタル化は遅れており、オンラインではほとんど閲覧できない状態であり、オンラインで収集可能な公刊デジタル史料に掲載されている当該期カトリック教会の政治論争を分析している。しかしそれは他の文献との比較を通じて行間を読むというテキストベースの古典的研究にとどまる。現地研究者への聞き取りはメール等でも不可能ではないが、その基礎になる研究内容が、一次史料から知りうる状況理解に基づいたものではないため、新研究と評価されず、すでに渉猟した先行研究を紹介される状態である。研究分担者全員が同様の状況に置かれているため、この間のヨーロッパにおける新たな動向は、現地研究者との密な交流を絶やさない分担者の石黒を通じて辛うじて把握できるのみである。しかし公刊史料の多い中世史を広く展望する甚野は、終末論という異なる角度からカトリック的世界観と君主の関係を検討し、救済史の一部としての君主の役割を析出している。この救世主や「地上の神の代理人」としての役割は、皆川が対象とするバイエルンの君主鑑の場合、上級君主である神聖ローマ皇帝に期待する役割でしかない。これは「君主」の身分により求められる資質が異なる(カトリックにおける普遍的世俗支配者とされる皇帝imperatorと、その皇帝および教会により限定的な「祖国」patriaの支配を承認される一般君主princeps)ことを示しており、テーマの変更により「質」の変化を表現しうることに注目した、対抗宗教改革下カトリック教会の戦略変更と見なし得る。この点は従来計画の一部を上書きする重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」にあるように、昨年度のコロナ制限による研究計画の遅れにより、令和5年度への延長はほとんど不可避な状況となっている。しかし"With Corona"が定着し、関係諸機関が渡航を問題視しなくなるまで更に時間がかかると考えられることから、研究の方向も修正が必要となる。幸い苦肉の策として公刊史料の精査のみで実施したこれまでの研究で、カトリック君主鑑における「国家理性」の質的転換とは、理念そのものの質的転換ではなく、対象を「普遍的に」から「個別的に」捉えるという方法の質的転換であったこと(これはカトリックの普遍教会から一宗派への移行と連動している可能性がある)が予測されるところにまでたどり着いた。これを受け代表者の皆川については、やや時代が下るが、三十年戦争後にコンツェンの後任としてバイエルンの宮廷司祭を勤めたイエズス会士J.ヴェルヴォーの『バイエルン人の歴史』を(可能であればその公刊の状況も含めて)分析し、そのテキストからカトリック教会の政治的判断における「正しい認識」の変化を解明した上、研究分担者の研究成果と比較し、それがカトリック教会にとって新しい評価基準を成しているかどうか、あるいは「現在までの進捗状況」で示した「テーマの変更」に基づくものなのかを確認し、その成果を次に共同研究として計画している「中近世北西ユーラシアにおける『正しい認識』の下方拡大と止揚」(仮題)の理論ベースの一つと成したい。さしあたっては本科研費研究の来年度への延長が認められることを前提とし、昨年度計画していた渡航を今年度に、今年度予定していた外国人研究者の招聘を来年度に実施して、本来の方法に基づく研究計画の維持継続に努めたい。
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Causes of Carryover |
当初2021年度に予定した現地渡航調査が、コロナによる出張制限・渡航制限のため実施できなかった。差額の大半はそのために生じた額である。加えて同様の理由により、2020年度に予定し、2021年度に繰り延べていた現地渡航調査も、スタンバイ状態が続いた末に結局実施できなかったため、若干の研究計画の変更を行って図書購入費や備品費に支出したものの、残余額が生じた。なお渡航先諸国(ドイツ、イタリア、オーストリア、スペイン等)のうちドイツを除く国々は、2022年5月1日時点で日本側の渡航制限措置(帰国時の長期待機措置)が解除されれば、所属機関の勤務との関係でも渡航可能な状況になっており、すでに研究従事者の所属研究機関によっては機関としても渡航を認めている(金沢大学)。従って今年度は渡航調査が可能と予想され、2021年度に執行できなかった海外渡航を実施する予定である。ただし所属研究機関の対応が異なっており、特に研究代表者の所属する教職大学院は、山梨県内の小中高校と不断の接触を必要とするため、渡航調査の裁可が遅れる可能性がある。また仮に日本側の渡航制限措置が継続する場合、今年度に予定している現地研究協力者の招聘にも支障が出るため、その場合には再度研究計画を変更し、今年度が最終年度に当たる本研究の期間を来年度に延長して、渡航調査の結果のとりまとめと現地研究協力者の招聘を来年度中に集中的に行うことにしたい。
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