2022 Fiscal Year Research-status Report
Fundamental change of Catholic theological idea of reason on the research of early modern Western "Mirror of Prince"
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20K01038
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
皆川 卓 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (90456492)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石黒 盛久 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (50311030)
甚野 尚志 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (90162825)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ウェストファリア条約 / 道徳の格率化 / コンツェン / ブーゼンバウム / 東西教会合同 / バーゼル公会議 / 預言者 / マキャヴェッリとボッテーロ |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者の皆川は、コンツェンの『政治学十書』のテキスト分析をほぼ終了すると共に、神聖ローマ帝国におけるカトリック君主鑑のその後の発展について、17世紀中期におけるカトリック神学者の政治関係の出版物を渉猟した。その結果君主鑑は劇的に減少し、政治の実践に関する疑問や迷いは個々の君主に対する告解によって処理されるようになること、同時に「道徳神学」という新たなジャンルのテキストが開発され、従来の君主鑑と比べ抽象化された形で、政治的問題に関する宗教的基準が示されるようになったこと、そして宗教的基準そのものの情報源も教説の引用から経験的根拠に裏付けられた実証に移行していく状況を把握した。その分析結果の一部は、研究報告「宗派対立終焉期のイエズス会士著述における 異教・異端と暴力-『聖人列伝』にみられる暴力の評価」および「『君主鑑』から『道徳神学』へ-17世紀カトリック神学の政治と倫理」によって発表している。また研究分担者の甚野は、15世紀の公会議の中で、教条主義的叙述が経験主義的な性格を強める過程を、研究報告「バーゼル公会議(1431-1449)とは何だったのか ―Johannes Helmrath の研究を中心に」で分析し、「キリスト教身体(共同体)」の危機を神学の経験主義的拡大によって補完したことを解明した。一方研究分担者の石黒は、論文「マキアヴェッリ思想における公民的心性の宗教的起源-15世紀フィレンツェ政治文化を背景に」及び研究報告「マキャヴェッリからボテーロへ-16世紀後期のイタリア政治哲学の原理的特徴」(イタリア語報告)を通じ、イタリア君主鑑の中で論じられる15世紀末から16世紀の政治理論が、政教の結びつきを強化するものではなく、逆に市民道徳の中に潜む中世的な宗教的観念を脱構築する運動であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ3年目の2022年度になり、ヨーロッパ方面におけるアカデミックな活動が徐々に再開されたことから、オンラインなどを利用して現地研究者による聞き取りは若干進展したが、現地における研究期間や文書館の利用はなお制限されており、日本における渡航制限もなお続いていたことから、当初の研究計画で予定した、渡航による一次史料を短期間に収集することが2022年度後半まで困難な状況が続いた。2022年度末には渡航調査が可能となったが、他研究テーマの期限の都合で、そちらを優先している。そのため当該年度は2021年度に続き、刊行史料の精読による分析が研究の中心を占め、一次史料による君主鑑テキストの成立背景については、断片的な研究状況が続いている。しかしながら刊行史料の渉猟や分析については十分な時間が取れたため、当初に計画されていたよりも俯瞰的に当該テーマを位置づけることが可能になった。特に君主鑑のテーマの中心的課題である政治的暴力の宗教的正当性については、聖職者の間でもその時々の政治状況(15世紀の東西教会の再合同や17世紀の宗教戦争の終焉)を視野においた「包括」への期待から、暴力の正当化理論にも変化が生じ、それが「君主鑑」のテキスト構造やテーマの選定にも影響を与えていた点を明らかにすることができた。ただし暴力自体が世俗権力と信者の関係として宗派の外に置かれるプロセスについては、抽象的な「道徳」観念の生起を媒介とした「教説」と「権力」の直接的関係の遮断というテキスト局面を示しうるに留まっている。したがって延長を認められた今後の研究期間の間に、可能となった一次史料による君主鑑成立の背景の分析を通じて、その逆の状況(つまり「教説」と「法」の一致への志向)がどこまで論証できるか、またそれと社会的背景の照応関係の構造をどこまで明らかにできるかが課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の影響で予定の研究過程が逆になってしまったため、研究計画は延長と相当の変更を強いられている。幸い予定外の研究時間の確保により、先行研究や刊行史料の渉猟はもちろん、方法論的に見てもより広い視点から研究テーマの再定位を行うことが可能になっている。すなわち君主鑑を通じたカトリック理性概念の転換は、当初の近世前期に限定された視野を超え、中世後期の「キリスト教的身体」を巡る「神の意志を知る能力」(ratio=理性)の神学的見直しからボランディストの史的実証主義に至る長期的展開の中で、カトリック的「理性」の転換を析出できるようになった。とりわけ14世紀からカトリックの知的エリートの宗教的セオリーの内部で徐々に生じ、16世紀の人文主義政治哲学における宗教のメタ正統性化を経て、17世紀に顕在化した「道徳」の格率化(これまでエックハルトに始まる「信仰の個人化」と呼ばれてきた変化)が、カトリックにおける「理性」を二重化(神の知と人間を含む自然の知の複層化)し、それがカトリック諸国の近代における政教分離をもたらしたという局面が、君主鑑のテキストからのみならず、君主鑑そのものの位置づけに関する検討から明らかになった。今後は一次史料を収集・検討してその結果を研究者間で比較検討することにより、各君主鑑テキストの思想的背景の変化を、公会議主義から宗教平和の200年の長期に渡って総覧し、そこで展開した「道徳」の格率化現象の流れを把握することで、「君主鑑」がカトリックの「理性」理解に果たした二重化とその限界、そしてそれによる宗教的政治理論メディア自体の発展の足跡を跡づけ、研究全体の総括を行いたい。一次史料の収集については、コロナ禍の間に進展した一次史料のデジタル化により、当初計画よりも渡航収集の重要性が低くなっているため、渡航は総括に必要な現地研究者との情報交換に重点を置く予定である。
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Causes of Carryover |
2023年度使用額の発生は、本来、1年目と2年目に予定していた海外渡航による一次史料の収集の遅れによるものである。それは公的規制により直接的に文書館や研究期間が訪問できないというだけでなく、その間に代替作業として取り組んだ研究活動を受けて、当初見込んでいたよりも俯瞰的な視点による当該テーマの把握が可能になり、それに合わせて研究方法をブラッシュアップした結果、単に研究順序を入れ替えるのではなく、渡航調査のあり方自体を改善することが可能になったためである。研究期間が今年度と限定されているため、一次史料収集は可能な研究者のみが行うこととし、海外渡航費は年度最後の総括の時期に、本研究で導いた結論の妥当性を、海外研究者との研究交流を通じて確認することにあて、次の研究に向けての足がかりを構築したい。コロナ後の経済状況の変化による渡航費の高騰(航空券代がコロナ前に比べ1.5倍程度高騰している)により、渡航調査における活動計画については一部削減する必要が生じ、当初二回予定していた渡航を一回にまとめるなどの効率化で対応することを余儀なくされている状況から見ても、このような使用計画の変更が現実的と考える。
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