2020 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ近現代における地域政策体系の形成――その歴史的性格と現代的射程
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20K01051
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Research Institution | Akita National College of Technology |
Principal Investigator |
長井 栄二 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (40369921)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ドイツ史 / 地域政策 / 内地植民政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、19世紀末のプロイセン邦国における成立期の内地植民政策の政策過程と、当該期の同政策の性格を、主として東北農村ポンメルン州の行政文書の分析により解明した(「研究の目的」および「研究実施計画」①)。すなわち同政策が、先行研究で指摘された単なる農業・土地政策を超えて、その初発から実質的に、農村地域を広域的・計画的に整備する近・現代的な地域政策、いわゆる空間整備政策として展開されていたことを明らかにした。具体的には: ①内地植民法制定後、その施行令は、邦政府が作成した草案に、邦の地方レヴェルの政策機関と州知事とが意見表明する過程を経て確定された。この施行令が、具体的な植民事案採択の審査基準に、地域計画的なファクター(市場・交通条件、教育環境など)を採用することにより、同政策の内実を、入植者の安定的定住のために広く環境整備を行う政策へと大きく押し広げていた。②また初期の植民事業において現に、農業施設や用水・道路などの整備と権利・義務の調整が、地方政策機関の仲介する当事者契約に基づいて、近隣の既存集落や計画中の植民事業をも巻き込む形で、広域的・計画的に行われていた。以上、同政策は、先行研究が主に依拠した法律テキストとは別の次元の、政策施行の過程において、その初発から、農村空間整備政策として展開されていた。 ③その際、先行研究で強調されたユンカー(大土地所有・経営者)階級利害の優先は、広域の政策主体(邦政府、地方政策機関、州知事)により阻止されていた。これらの政策主体が重視していたのは、同政策最大の制約要因、すなわち不動産抵当証券を用いた政策ファイナンス・システムの安定の確保だったのであり、だからこそまた、入植者の農地購入費の長期賦払を可能にする定住環境の整備を重視したといえる。この観点は、先行研究には全く欠いていたものであり、本研究の政策分析の視角として極めて有用である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上の自己評価は、以下の2点を理由とする: ①今年度は、プロイセン内地植民政策の成立期における同政策の性格と、世紀転換期以降に民間の新たな直接的事業主体が出現する歴史的背景を把握する作業が、ほぼ計画通りに進展した(「研究実施計画」①)。またその作業の中で、次年度以降の研究に用いうる新たな分析視角(政策主体におけるファイナンス・システムの安定の観点、および政策の総合化・体系化と地方の政策主体の力量との関係)が獲得された。 ②他方で、わが邦およびヨーロッパにおける新型コロナウイルス感染症の流行により、次年度以降に計画されている現地文書館の訪問と未刊行の行政内部文書の入手が突如不確実となり、研究計画の見直し(後述)が不可避となった。このため、本年度に予定されていた二次文献等の購入は、以下の理由により、当面見合わされた: 今年度購入を予定されていたこれらの二次文献等は、計画では、上の未刊行史料を補完する補助的な位置づけで選定されていた。しかし現状において、パンデミックの収束については全く予見不可能であり、次年度以降、研究期間内に訪独史料調査を実施することが困難となり、本研究が中心的な一次史料として位置づけている未刊行の行政内部文書を新規に入手することが不可能になる、といった事態も十分に予想される。その場合にも本研究が必要とする史料水準を維持するためには、少なくとも、代替史料として邦議会議事録等の刊行公文書を、計画されていたよりもはるかに体系的に入手することが必要となる。このため、今年度に予定されていた二次文献等の購入費を、極力次年度以降の代替史料の体系的入手に充てることが、本研究の遂行に最も適当だと判断された。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的に変更はなく、方法の基本的枠組みにも変更はない。次年度以降は、今年度の研究成果を踏まえ、まずプロイセン内地植民政策の展開期(世紀転換期から第一次大戦勃発まで)に地域政策の体系が出現してくる過程を明らかにする。そして最終年度に、戦間期におけるこの政策体系の性格変化を確定し、以てドイツ近現代地域政策の歴史像を獲得する。 しかし以下の部分については、計画を変更した。すなわち本研究は、主要な一次史料、特に未刊行の行政内部文書を入手するために、研究期間の第2・4年度目(令和3・5年度)に、研究代表者がドイツのメクレンブルク・フォアポンメルン州立グライフスヴァルト文書館およびベルリン枢密文書館を訪問し、史料調査を行うことを予定していた(「研究実施計画」)。だがCOVID-19の流行のため当面、第2年度目(令和3年度)の訪独史料調査を第3年度目(令和4年度)に延期することとした。ただし現状においてパンデミックの収束については予見が不可能であるため、2度の訪独調査、あるいは1度のそれをも、研究期間内に実施できるかどうか、予断を許さない。このため、そうした状況下でも史料水準を維持しつつ研究を遂行しうるようにするために、次年度以降、パンデミックの推移を見極めつつ、代替史料として、国内で入手可能なプロイセン邦議会史料等の刊行公文書を、体系的かつ段階的に入手していくこととした。 今回延期した1度目の訪独調査の実施の可否についての最終的判断は、遅くとも第4年度目(令和5年度)の早くまでに行う。しかし未刊行の行政内部文書は本来、本研究が内外の研究にインパクトを与えうるものになるかどうかという点において、極めて重要なものである。それゆえ研究代表者は、1カ年以内の研究期間の延長を申請する可能性も視野に入れているが、その判断を下すにはなお時期尚早と考えている。
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Causes of Carryover |
わが邦およびヨーロッパにおける新型コロナウイルス感染症の流行により、本研究で次年度以降2回にわたり予定されている訪独と、現地文書館における未刊行一次史料(行政内部文書)の調査・入手が実施できるかどうか、全く不確実となった。こうした状況の下、令和3年度に予定されていた1回目の訪独調査を令和4年度に当面延期するとともに、最悪の場合に、研究期間内に現地での史料調査・入手が行えなくなったとしても、本研究の水準を維持しうるようにするために、次年度以降パンデミックの状況を見極めつつ段階的に、代替の一次史料として、国内でも入手可能なプロイセン邦議会議事録等の刊行公文書を体系的に入手していくこととした。ただしその際、議会資料等の史料は、本研究の場合、体系性を持っていないと史料価値を十分発揮しえず、入手費用が大きくなることが予想される。その費用を可能な限り確保するため、本年度に予定されていた二次文献等の購入を見合わせ、当該額(184,380円)を、次年度の物品購入費(189,000円)と併せ、次年度における代替一次史料の購入等に振り向けることとした。
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