2021 Fiscal Year Research-status Report
古代ギリシアにおける「民主政の技法」とその伝播に関する政治文化史的研究
Project/Area Number |
20K01054
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋場 弦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10212135)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | アテナイ / ギリシア / 民主政 / 文字 / リテラシー / 公文書 / 記録 / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、前年度に引き続き、「民主政の技法」(Ars Democratica)と呼ぶべき歴史的事象の諸相を、古典史料・碑文史料および考古学的史料をもとに明らかにすることに努めた。アテナイ民主政において、投票方式や大人数の組織形態などの実務面において考え出されたさまざまなツールのうち、前年度は民衆裁判所で用いたれたものに焦点をあてたが、本年度は文書による記録とその保管に注目し、書記技術(literacy)が民主政においてどのような役割を果たしたのかを中心に検討した。このテーマについては、すでにR. Thomas, Oral Tradition and Written Record in Classical Athens, Cambridge, Cambridge UP 1989; idem, Literacy and Orality in Ancient Greece, Cambridge, Cambridge UP 1992.以来、欧米でも幅広い研究の蓄積がある。古代のアテナイは基本的には口頭伝達が主たる情報伝達手段であったが、2550平方キロメートルの領土に成年男子市民だけで最盛期に5万から6万人を数えたアテナイは、例外的な大国であり、その領土の隅々に国家の決定など政治参加に必要な情報を素早く行き渡らせるためには、文字による情報伝達が不可欠であり、それゆえ前5世紀初頭からアテナイではさまざまな手段で文字媒体を活用し、民主政の運営に役立てた。さらに伝達のみならず、記録と保管という機能においては、改変を受けやすい個人の記憶能力よりも、文字の方が格段に優れていた。アテナイ民主政が公的な記録をどのように保管したかを、伝アリストテレス『アテナイ人の国制』などを手がかりに明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染拡大の影響で、当初予定していた海外出張による文献調査・現地調査は不可能となったが、その反面、刊行史料の分析による研究が順調に進み、全体的に見れば期待以上の進展が見られたと評価できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの分析結果を総合して、「民主政の技法」がどのように形成され、どのように伝播したのかについて、全体像を明らかにすることが課題となる。おおむね当初の研究計画通り推進して善いものと思われる。新型コロナ感染症がどの程度収束するかによって予断は許されないが、次年度には海外出張による文献調査と現地調査をぜひ実現したい。
|
Causes of Carryover |
当初海外出張による文献調査と現地調査を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大によって執行できなくなったため。
|