2021 Fiscal Year Research-status Report
中世の百科全書にみるヨーロッパにおけるユーラシア認識の変容と再構築
Project/Area Number |
20K01062
|
Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
鈴木 道也 東洋大学, 文学部, 教授 (50292636)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ヴァンサン・ド・ボーヴェ / 百科全書 / フランス王国 / 東西交渉 / 旅行記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、13世紀から14世紀にかけてのフランス王国で編集、制作された百科全書的作品群、とくにヴァンサン=ド=ボーヴェの作品『大いなる鑑』とその俗語翻訳版を対象に、そこに記された異文化圏に関する記述の成立過程と内容、さらにその政策・意思決定への影響を探ることで、中世ヨーロッパの人びとが異文化圏、とくに東方ユーラシア世界をどのように認識し、そしていかなる「外交」政策を展開していたのか、中世における学知と政治との関係を明らかにしようとするものである。 本年度は、13世紀にモンゴルとの交渉を目指して東方に向かった托鉢修道会士たち、たとえばサン・カンタンのシモン、ピアン・デル・カルピネのジョヴァンニ、ルブルクのウィリアムらの報告書が、『大いなる鑑』の一部を構成する史書『歴史の鑑』のなかにどのようなかたちで組み込まれているのか、その形式や語法を確認した。またジャン=ド=ヴィネ-が制作した『歴史の鑑』の仏語版のなかではこの報告書がどのような仏語を用いて記述されているか、という点についても分析を行った。加えて13世紀末から14世紀初めにかけてイル=ハン国のアルグンおよびオルジェイトゥからフランス国王フィリップ4世に送られた書簡についても、それがどのような言葉を用いて記録・管理されてきたかという点について基礎的な確認作業を行った。全体として本年度の研究活動は今後の分析活動のための予備的な作業という性格をもっており、大きな成果は得られなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヴァンサン・ド・ボーヴェの「歴史の鑑」は、全体が多くの引用から成り立っており、今回分析の対象とした部分(モンゴルとの交渉を目指して東方に向かった托鉢修道会士たちの報告書)に関しても、オリジナルがそのまま収められているわけではなく、無数の切り貼り作業が行われている。必ずしもオリジナルを復元することが目的ではないが、古代から中世初期にかけて活躍した知識人たちの諸著作からの引用部分と選り分けながら、かつ報告書に加えられたヴァンサン自身の加筆・修正部分も確認しながら、報告書の内容に対してヴァンサンがどのような認識を示しているのか明らかにしようとする作業は、必ずしも容易ではなかった。また海外渡航の機会が限られていたため、残念ながら現地研究者との研究交流もままならなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
「13世紀ユーラシアにおけるキリスト教世界とモンゴル帝国(仮)」をテーマとする学会シンポジウムの企画立案作業を進めるなかで、モンゴル帝国史研究における、あるいはイル=ハン国研究における史書分析のきわめて重厚な成果に触れることとなった。これらの研究における写本分析、個々の文書の形式や語法などに関する分析は、その手法および研究成果のいずれにおいてもきわめて示唆的であり、それらに学ぶことを通じて、13世紀のユーラシア世界においてキリスト教諸勢力とモンゴル諸ウルスのあいだでいかなる外交が展開されたのかという点について、両者間の政治権力構造の差異や非対称性を意識しつつ今後の分析作業を進めていきたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大が今年度も収まらなかったため、海外渡航しての研究報告や研究交流などの機会が得られなかった。次年度使用額が生じた主たる理由は、旅費の支出がなかったためである。2020年度、2021年度と二年間に渡って旅費を執行することができない状態が続いており、非常に残念であるが、2022年度は、繰り越しとなっている研究費(旅費)を利用して海外で研究活動を行いたいと考えている。
|
Research Products
(2 results)