2023 Fiscal Year Annual Research Report
Canonization and political order of South-west France in the High Middle Ages
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20K01068
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
小野 賢一 愛知大学, 文学部, 教授 (30739678)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 列聖 / 教会史 / 国制 / 教皇権 / アレクサンデル3世 / ヨーロッパ中世 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はグローバルヒストリー、フロンティアヒストリーなどの最新の国制史の成果を導入し、聖俗の単純な二項対立で国制を捉える叙任権闘争史観にかわる新たな国制史・教会史の可能性を探究するものである。封建時代の王権や領邦君主権の十分に及ばないアンジュー帝国の辺境に位置する南西フランスのアキテーヌ地方の社会的秩序については、アデマール・ド・シャバンヌが著した神の平和運動に関する年代記史料の記述が残されているためよく知られている。一方で12世紀の社会的秩序については不明なままであった。本研究では先行研究で解明されなかったこの問題について、列聖にかかわる史料を用いることで史料不足を補った。列聖プロセスに着目するアプローチの採用によって、列聖を教会制度上の閉ざされたシステムではなく、聖界・俗界のコミュニケーションの結節点として捉えることを可能にした。12世紀に皇帝フリードリヒ・バルバロッサの擁立する対立教皇を打倒するために、教皇アレクサンデル3世の下で列聖プロセスは高度に発展し、列聖推進のための書簡、列聖請願書、列聖の調査の依頼文書、列聖教書などの列聖のための実務書類が時系列で作成された。それらを用いることによって、列聖プロセスを時間軸に沿って調査する道が開かれ、その結果、聖俗の対立を強調する叙任権闘争史観とは逆に、列聖を通じての聖俗諸権力の相互依存関係の構築を動態的に把握することを可能にした。複合国家アンジュー帝国のゆるやかな統合のシンボルとしての在俗教会の聖人(カンタベリ大司教トマス・ベケット)と律修教会の聖人(グランモン会の創建者エチエンヌ・ド・ミュレ)を用いた領域内平和の生成は、12世紀の教皇権の列聖政策のなかに位置づけられるだけでなく、聖俗諸権力の列聖をめぐって構築された相互依存関係の深化によって実現されたという事実を解明した。
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