A comprehensive study of Buried Cultural Properties (archaeological resource) Centres in Japan

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 20K01085
• Research Institution: Osaka City Cultural Properties Association
• Principal Investigator: 岡村 勝行 一般財団法人大阪市文化財協会, 調査課, 調査事務所長 (70344356)
• Project Period (FY): 2020-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: 埋蔵文化財センター / 考古遺産マネジメント / 持続可能な考古学 / パブリック・アーケオロジー / 国際比較

Outline of Annual Research Achievements

年間8,000件にも及ぶ遺跡調査の成果、考古遺産が生み出す価値を社会により多く届けるシステムのあり方を求めて、地域の遺跡情報・考古学サービスの拠点である「埋蔵文化財センター」に着目し、その全体像を明らかにするとともに、国際比較を通じて、その特質、課題を広く発信することが本研究の目的である。
収集した約250事例の「埋蔵文化財センター」について、沿革、運営・組織体制、遺跡調査を含む活動内容、展示室の有無・内容などのデータベースを作成し、分析・類型化を進めた。海外の事例については研究協力者からイングランド、フランス、オランダ、スウェーデンなどの状況について情報・資料提供を受け、分析を進めた。現在まで日本の自治体の埋蔵文化財センターと同様な施設は確認できていない。また、イングランドでは現行の民営化システムの見直しが喫緊の課題となっており、日本の埋蔵文化財マネジメントの国際的な位置付けを考える上で良い参照例になることが判明した。遺跡調査の民営化（1990年のPPG16）以来の30年間を検証した結果、地域の資料の継承、データの統合は大きく後退したことが明らかになった。考古学の公共的価値の向上、研究の統合、アーカイブ・情報管理の改善、研究諸機関の連携・協力の促進という観点から、地方公共団体における考古学サービスを中心に大学や研究調査機関と連携を図る「地域拠点（ハブ）」の構築がロンドン考古学会をはじめ関係諸機関から提案されている。この拠点は日本の自治体における埋蔵文化財センターに通じるが、おりしも2018年の文化財保護法の改正に伴う「文化財保存活用」の「大綱」（都道府県）、「地域計画」（市町村）の策定のなかで、「研究」を大きく掲げる地域（例えば、島根県・福岡県・長崎県）の計画モデルと共通性があり、埋蔵文化財センターの国際的な位置付けを考える上で重要な視点を得た。

Current Status of Research Progress

4: Progress in research has been delayed.

Reason

申請時の計画では、2年目は①資料分析：研究協力者とともに資料収集ならび収集資料の精査・分析、②現地調査：主要な埋蔵文化財センターの実態調査(20施設程度を予定) ③国際発信：ICOMOS、EAAなど国際学会における研究発表、 ④成果公表：中間的な成果をもとに、学会報告ならびに研究誌で日英の論文公表、を掲げていたが、前年度からほぼ２年間続いたコロナ禍（外出規制、休館、担当者の在宅勤務など）により、全般的に大きな影響を受けているのが実情である。
資料調査については、報告書、ウェブ、問い合わせなどで、資料収集を進めているものの、基礎的資料の精粗があり、標準化が不十分な段階にとどまっている。②の実施調査は外出規制のもと、府内の数施設で実施したのみで、国内の主要資料の実態が調査できない状況にある。③については、ICOMOS、EAAなどの国際学会における研究発表の場で、「埋蔵文化財センター」の先進的な取り組みを発信するとともに、類似施設・活動の資料提供を呼びかける予定であったが、資料整備の遅れに加え、オンライン開催による限定されたプログラムから、叶わなかった。予定していた欧州の考古遺産マネジメントに通じる海外研究者の招聘、研究会の開催も中止となり、情報・課題の共有に少なからずの影響を及ぼした。
以上、2年目に入った世界的なパンデミックのなか、当初の計画は大きく変更せざるを得ず、文献・ウェブ探索、問い合わせなどによる基礎的なデータの蓄積を継続し、統計的・概括的な資料分析に留まり、来るべき実地見聞による実態調査に備えている状況である。

Strategy for Future Research Activity

これまで収集した250事例の「埋蔵文化財センター」について、データの精粗を解消すべく、引き続き照会作業などにより標準化をすすめ、分類・比較項目を確定し、新たな事例を補いつつ、データベースの整備を図る。とりわけ、市民、社会との接点となる教育普及事業、展示室の有無、規模、評価について、焦点を当てる。また、そのうち代表的な施設・機関については地域のミュージアムとの関係を明確化させる。
海外の事例については、イングランド、フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデンを中心に、研究協力者の協力を得つつ、考古遺産マネジメント関係機関の報告書の分析、論文調査を進め、遺跡調査の事務手続き、調査、報告書作成、資料保管、普及啓発など考古遺産マネジメントの一連の流れを明らかにし、全般的な状況・課題の把握のうえ、類型化を試みる。さらに各国の代表的な機関・施設について、緊急調査で得られた出土資料の管理、活用、地域のミュージアムとの関係に焦点をあて、具体的なケーススタディとして資料化する。なかでも、現在、「行き過ぎた」民営化による問題から考古学サービスの再構築を目指すイングランドでは、近年、多くの関係論文・報告があり、優先的に分析する。
以上の調査研究は国内外の実地調査によって実質化・実体化されることが不可欠であり、また、研究の活性のためには専門家の招聘や研究交流、学会・研究会の発表が望ましい。感染症が収束に向かい、社会活動が通常化すれば、当初の計画に沿い、現地調査、国際学会の参加を実行する。コロナ禍が続く場合、オンラインなどを適宜活用しつつ、「埋蔵文化財センター」の基礎的データの整理と類型化による全体像の提示という、第１の目的を優先させて、研究全体の推進を図る。

Causes of Carryover

研究初年度に続き、2年目もほぼ一年間、新型コロナ感染症の影響下にあり、日々の生活への制約も小さくなく、研究環境を十分整えることができなかった。調査研究について、各地の埋蔵文化財センターの実地調査、海外研究者の招聘は叶わず、国内・国際学会での発表などは中止あるいはオンライン開催となった。今後の計画も、感染症の行方によるところが大きいものの、一時に較べ収束傾向、社会活動も通常化の状況にあり、2021年度に実施できなかった実地調査、国際学会への参加、海外研究者の招聘など旅費を中心に執行を行う。