2020 Fiscal Year Research-status Report
古代アンデスの織物:製作技術の多様性と年代的変遷の研究
Project/Area Number |
20K01088
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
浅見 恵理 埼玉大学, 教育機構, その他 (90836735)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鶴見 英成 東京大学, 総合研究博物館, 助教 (00529068)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アンデス考古学 / 染織品 |
Outline of Annual Research Achievements |
第1の目的として、考古学コンテクストをもつ織物と紡織具(棒軸、紡錘車、針)を対象に資料調査を行った。特に、ペルーのサウメ遺跡の発掘調査で出土したチャンカイ文化の紡織具を対象に分析を実施した。日本の織物研究によると、糸の太さと紡錘車の重さに相関関係があることが指摘されている。ゆえに、サウメ遺跡出土の紡錘車の大きさ、重さ、孔の直径を把握し、また棒軸に巻き付いている糸の属性(材質、撚りの方向、糸の直径等)を詳細に把握した。その結果を踏まえて、本遺跡から出土した織物の糸の撚りの方向や太さとの比較を行い、傾向や相関関係の把握に努めた。さらに植物性の針についても分析を進めた。本遺跡からは孔を有する針と無い針が出土している。孔の有無による機能性の違いといった点について、先行研究ではほとんど触れられていない点が明らかになった。今後も関連する論文の収集を行い、分析視点の多角化や考察を深化させる。このように、紡織具に焦点を当てて分析を進めることは、古代アンデス織物の製作技術を解明するアプローチの一つとして大きな意義がある。 第2の目的として、研究分担者が所属する東京大学総合研究博物館所蔵の古代アンデス織物について調査を実施する予定であった。資料数は数百点に上り、特に未調査のチャンカイ文化の織物や紡織具が多数あることをこれまでに確認している。本資料をもとに文様や織技法に関するさらなるデータ蓄積を図る予定であった。作業は織物の専門家と一緒に顔を合わせて一枚の織物を観察し、意見交換を行いながら進めるという方法をとる。今年度は、新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から、研究の遂行は非常に厳しい状況であった。それゆえ、これまでに作成した織物の分析データの整理作業のみ行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
サウメ遺跡出土の紡織具に関しては、データ蓄積および分析を行うことができた。紡錘車の孔の直径と重さの相関関係を把握したり、紡織具に関する情報収集を行ったりした。本遺跡資料の他に、当初の予定では東京大学総合研究博物館所蔵の資料を対象に、データの蓄積を目的として調査を行う計画だった。しかし、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、複数人が集まって行う博物館所蔵の資料調査は進めることができなかった。それゆえ、これまで調査したデータの整理を行い、新たな研究視点や方向性を模索する作業を繰り返した。 未調査の資料に関しては、清掃作業やリスト作成等、予定していた作業を全く遂行することができなかった。資料は収集時そのままの状態で箱に保存されている。分析調査を行うためには、まず資料に付着した土や埃の除去から始めなければならない。紡織具も未調査の資料に含まれており、サウメ遺跡出土資料との比較を行う予定だったが実現不可能であった。次年度以降、未調査の資料の確認作業を一人でも進められるよう環境を整え、可能な限り実施していく予定である。 その他の博物館資料に関しては、図録やカタログなどを収集してデータの蓄積を行った。しかし、寸法、材料、糸の撚りの方向、単糸・双糸などの基本的な情報は掲載されているものの、問題は一枚の織物のどの部分なのか不明な点である。織物の本体と房などの端部では属性が異なる場合もあるし、各文様でも異なる糸が用いられる例は多数ある。このように、図録では各部分の細かな属性に関する詳細な記述は皆無であり、これまでのデータと比較することは困難な状況にある。特に紡織具に関しては、写真のみで寸法や重さの不明な資料が多い。糸が巻き付いたままの紡織具も散見され、紡がれる糸と紡織具の相関関係が直接把握できる良好な資料と考えられる。今後、可能であれば、各博物館で資料調査を実施してデータの蓄積を図る予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、新型コロナウイルス感染予防の徹底をはかりながら博物館所蔵資料の分析を進める。特に、研究の主軸となる東京大学総合研究博物館所蔵の古代アンデスの織物については、資料を抽出して放射炭素年代測定を行う予定である。 これまでの作業で、古代アンデス文明の各文化期にみられる特徴的な文様や製作技術を基準として資料を抽出し、年代測定を実施した経緯がある。各文化期の継続期間は長いものの、先行研究では考古学コンテクストのない資料を中心に技術の解明が進められてきた。それゆえ、織物の製作技術や文様についての詳しい変遷は明確ではない。まずは、各文化期の時間軸上での、ある製作技術が展開された時期の確定を目指している。 本研究では、特にチャンカイレースと称されるチャンカイ文化(紀元後1000-1470年)特有の技術に着目している。綿糸を用いて紗や羅といった捩織で作られた基布の上に刺繍を施す技法で知られるが、その起源と発展過程は未知である。例えば、紗に刺繍という比較的容易な方法のほか、羅と紗の複合の基布に刺繍を施すという複雑な工程を必要とするものまで多様性がみられる。さらに染色された獣毛糸で刺繍する例もみられる。これらが時期的にどのような変遷を辿るのかを解明するために、東京大学総合研究博物館所蔵のチャンカイレースを対象に、技術的特徴の把握と放射炭素年代測定を実施する予定である。 また、資料を分析する途上で、文様のモチーフや技術的観点からでは文化期の判別が難しい資料が相当数含まれていることが明らかとなった。しかも技術的には複雑なものや類例に乏しい文様の例もある。年代測定を行い、それらの時期を明らかにすることで、アンデス文明における織物技術の発展史に貢献できると考える。 その他の国内の博物館所蔵資料に関しては、各博物館に問い合わせ、調査が可能であれば調査申請を行い、データの蓄積を図る予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大が懸念され、博物館での実質的な作業が不可能であったため、助成金を使用する機会がほぼなかったことに起因する。次年度は、新型コロナウイルス感染予防対策を徹底しながら、本格的に分析調査を実施する予定である。
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