2021 Fiscal Year Research-status Report
和紙製造に必須な粘液生産植物トロロアオイとノリウツギの栽培と粘液保存の基礎研究
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20K01105
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Research Institution | Fukui National College of Technology |
Principal Investigator |
嶋田 千香 福井工業高等専門学校, 電子情報工学科, 特命准教授 (20345599)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小越 咲子 福井工業高等専門学校, 電子情報工学科, 准教授 (70581180)
小越 康宏 福井大学, 学術研究院工学系部門, 准教授 (80299809)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トロロアオイ / 和紙原料 / 福井県 / IoT栽培 / 根の保存方法 / 根抽出液の粘弾性 / 組織学的研究 / ノリウツギ |
Outline of Annual Research Achievements |
和紙は日本の美術品・建築材料であり、日本文化の基本的な材料である。また、和紙は世界の美術品や書籍の保存修復にも欠かせないものであり、世界の芸術品を次世代に伝えていくために必須の材料と言える。トロロアオイの根から得られる抽出液は手漉き和紙の粘材であり、特に「流し漉き」の製法で利用されている。これまで茨城県内で主に生産されてきたが、その生産量は近年激減し、越前和紙など、和紙製造継続に大きな危機感を感じている産地がある。交付申請書に記載した主な研究目的は、(1)栽培条件 (2)環境に配慮した根の保存方法、(3)根の組織学的及び根抽出液の科学的評価法を、それぞれ確立することである。 2020年度には(1)ハナオクラ(トロロアオイに近縁)を異なる栽培条件で栽培し、移植に不向きな点、マルチ被覆(トロロアオイ栽培地では被覆が推奨されない)やマリーゴールドとの混植で成長促進の可能性が示された。2か所ある圃場の内、1か所ではIoTで生育環境を記録することができ、(2)保存方法については、冷凍と 外気温での保存を試み、それらが(3)粘液の性質に及ぼす影響を、ロートを用いて簡易的に測定した。組織学的には、粘液が含有される皮層部に、トロロアオイではハナオクラに比べ、空隙が多いことが観察された。 以上のことを踏まえ、2021年度は(1)マルチ被覆やマリーゴールド混植を含めた、複数の異なる条件でトロロアオイを福井県内で栽培、(3)その収穫物の根抽出液をロートで簡易的に測定すると共に、粘弾性計測装置を用いてせん断粘度と弾性の計測を行った。また、(2)根および根抽出液の保存に微生物の増加抑制が要因として考えられたことから、クララ根を保存水中に混入した場合、及び加熱が根・根抽出液に及ぼす影響について実験した。 なお、和紙抄造のネリ材料、ノリウツギについては挿木による増殖・栽培を2020年から継続中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の(1)栽培試験では、トロロアオイの種子を越前和紙組合から入手、20年度と同じ福井県内2か所の圃場で栽培した。有機肥料の有無、マルチ被覆の有無、コンパニオンプランツ (前年同様マリーゴールド)との混植の有無、芽かきした場合、花芽のみ除去した場合などの条件を設定し、生育の可否を検討した。その結果、マルチ被覆では土壌水分が過剰になり、軟腐病に侵された株が認められたが、それ以外の条件では、生育を阻害することはなかった。特に、芽かきした場合、花芽のみ除去の場合は、株や根の成長への影響が予想されたが、特に顕著な差は認められなかった。収穫時の根の大きさは茨城県産のものと同程度になり、以後の抽出液試験に供されなかった株は、越前和紙組合によって紙漉きのネリ原料として現在利用されている。 (2)根の保存については、微生物増殖の抑制が重要であると考え、同作用があるマメ科クララの根の利用を検討したが、試料量の更なる検討が必要であった。また加熱の影響を調査するため、プラスチックバッグに叩潰された根と水を入れ、45秒間加熱した試料の抽出液は、非加熱の対照試料と同等のロート通過時間を示した。 (3)根抽出液の粘稠性は、20年度にロート通過時間で簡易的に評価したが、粘性や弾性などの諸要因が複雑に関与することを考慮し、茨城県産と福井県産トロロアオイのネリのせん断粘度と第一法線応力差(弾性)の計測を粘弾性計測装置(円錐円板型)を用いて実施したところ、抽出後4時間経過した両者のネリには違いが認められなかったが、27時間経過するとせん断粘度、弾性ともに福井県産は茨城県産より小さい値を示した。また、(1)で収穫されたトロロアオイ根抽出液は栽培条件ごとに試料数4-5検体ロート通過時間を計測、栽培条件による違いは認められなかった。21年度収穫の茨城県産トロロアオイ根抽出液のロート通過時間は同等であった。
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Strategy for Future Research Activity |
21年度は福井県内でトロロアオイ栽培が成功し、同年収穫の茨城県産のものとの根抽出液比較では、ロート通過時間に差がなく、粘稠性が同等だったが、20年度収穫の茨城県産のロート通過時間は顕著に長かった。茨城県の栽培地は福井県より降雨量が少ないことが知られている。また、茨城県での栽培における問題として連作障害がある。 そこで、(1)栽培に関しては、潅水量の違いに着目した栽培と、連作の可否を検討する。この際に土壌水分量、地温、気温などを記録する。 (2)根の保存に関しては、現在使用されているクレゾールの健康と環境への影響が懸念されるため、クレゾールを使用しない保存方法の開発を目指し、クララ根の分量の検討、加熱後の根抽出液の粘稠性調査を継続する。また、20年度に実施した冷凍条件下での粘稠性調査を再開し、かつ倉庫内での保存による、経時的な抽出液、並びに植物組織観察を実施する。 (3)21年度の根抽出液の粘弾性測定を伸展させ、伸長粘度と曳糸性について調査する。試料は、21年度収穫の茨城県産トロロアオイ、並びに(1)で見込まれる収穫物である。ロート通過時間については、条件ごとの試料数を増やし、計測を実施したい。
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Causes of Carryover |
2021年度は、コロナ禍により学会参加がなく、また学生等との接触を避けるために人件費、謝金の支払いが発生しなかったため、残予算が生じた。
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Research Products
(1 results)