2020 Fiscal Year Research-status Report
近世以前の「牧野」景観の定量的復元:指標植物と花粉飛散モデルに基づいて
Project/Area Number |
20K01106
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
佐々木 尚子 京都府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (50425427)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 植生変化 / 植生史 / 半自然草原 / 二次林 / 火事史 |
Outline of Annual Research Achievements |
古地図や絵図の研究によって、幕末から明治期には、日本列島の多くの場所で草原のような開けた景観が広がっていたことが明らかになっている。古来、日本では、牧畜が主要な生業でなかったとはいえ、少なからぬ数の牛馬が役畜として飼育されており、これらの家畜の飼料や田畑に入れる草肥を得る場として「牧野」が維持されてきた。しかし、近世以前について、これらの「牧野」がどれだけあったのか、またどのような「牧野」があったのか、その実態は明らかでない。そこで本研究では、現在も「牧野」が残る蒜山地域および阿蘇地域を対象に、A)堆積物の古生態学的分析をおこない、その結果に B)花粉飛散モデルに基づく景観復元法を適用して牧野の比率を定量的に復元し、また C)特徴的に出現する指標植物の花粉・植物珪酸体を用いて牧野のタイプを判別することで、近世以前の「牧野」景観を定量的に復元する。R2年度は、岡山県の蒜山地域を対象とした堆積物の古生態学的分析を実施した。 1. 花粉分析による植生変化史の解明:蒜山地域の湿原で堆積物を採取し、化石花粉を抽出して、同定・計数を実施した。 2. 植物珪酸体分析によるイネ科植物の変遷の解明:上記の堆積物について、植物珪酸体を抽出し、同定・計数を実施した。 3. 微粒炭分析による植物燃焼史の解明:上記の堆積物について、微粒炭分析を実施した。 4. その他:堆積物下部に狭在する火山灰を分析したところ、7300年前に降下したK-Ah火山灰であることが明らかになった。 これらの分析の結果、この湿原の周辺では約7300年前-約1700年前には冷温帯落葉広葉樹林であったが、1700年前以降、イネ科やヨモギ属などの陽生草本の花粉が多く検出されることが明らかになった。約500年前以降には、微粒炭が増加してさらに草原が拡大し、約200年前からはアカマツも増加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R2年度は、新型コロナウイルス感染症が拡大する中で、野外調査や研究協力者の作業について様々な制約があった。しかし、野外調査の一部を次年度以降に先送りする一方、分析等の室内作業を先行して実施することで、当初に計画していた花粉分析、微粒炭分析については、予定していた試料処理ならびに分析をほぼ予定通りに進めることができた。堆積物の年代決定については、火山灰分析によって、堆積物の下限が約7300年前であることが明らかになった。これに加えて放射性炭素年代測定を実施することで、詳細な年代決定をおこなうことができた。以上のような進捗状況から、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度についても、新型コロナウイルスの状況によって、野外調査の実施に制約があることが想定される。感染の拡大状況をみながら、可能なタイミングと回数で実施することを目指す。とくに「牧野」を指標する植物の花粉標本の作成等については、開花期に試料採取に行けるかどうかが重要である。状況が改善しないようであれば、採取済みの堆積物や標本の整理・分析を先行して実施する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大により、地域をまたいだ移動の自粛が要請された。これにともない、予定していた野外調査の実施時期を再検討し、一部については次年度以降に先送りすることとした。参加予定であった国際会議も延期となったほか、国内学会についても開催時期の変更やオンライン開催への変更があり、予定通りの参加が困難となった。このため、旅費や調査補助者の謝金を中心に、次年度使用額が生じている。次年度については、学会の開催形式等、新型コロナウイルス感染症への対応策も落ち着いてくると予想されるため、状況を慎重に見極めながら、先送りしていた野外調査や学会への参加をおこない、次年度使用額を執行する計画である。
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