2020 Fiscal Year Research-status Report
Research on practical use and conservation of the culturally invaluable early negatives through making their photographic prints
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20K01107
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高橋 則英 日本大学, 芸術学部, 教授 (10188039)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 写真史 / 日本初期写真史 / 文化財 / 初期写真原板 / 湿板写真 / 鶏卵紙 / 写真技術史 / 写真保存 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、文化財として歴史的な価値をもつ初期写真原板から、同時代印画技法によるプリント制作を行うことを通じて、写真原板の活用と保存に寄与することを目的とする。 とくに我が国において幕末から明治中期に使用されたコロディオン湿板法ネガ原板について、19世紀後半の標準的な印画紙であった鶏卵紙を使用し新たなプリント制作を試みる。その際、原板に可能な限り負荷を与えずに新たなプリントを制作するための手法や諸条件を検討するとともに、その方式の確立を図り、それらを通じて文化財としての価値をもつ写真画像の活用と保存の両立を目指すものである。 本研究の課題は、①湿板写真原板からの安全で高精細な複製ネガ制作方法の確立、②複製ネガから鶏卵紙にプリントする際の望ましい階調コントロールの条件解明、③原板から鶏卵紙に直接プリントする場合の安全な手法の確立等である。2020年度は①と②に関わる、湿板写真原板の復元制作と湿板写真原板がもつ写真的特性の測定、およびコンピューター・スキャナーのセットアップとともに、湿板原板スキャニング時の、スキャナーへのガラス原板のセットや望ましい解像度の条件について検討を重ねた。 具体的には、復元制作した湿板写真原板を使用し、スタジオにセットされたレンズや感光材料評価用の解像力チャートの精密な撮影を実施した。感光板としては一般的な湿板写真の処方と、タンニン酸による乾式コロディオン処方を用いて制作し、撮影後は顕微鏡による観察で解像力を算出した。スキャナーとしては、精密なフォーカシングが可能で大判のガラス原板にも対応するEpson DS-G20000を取得し、MacBook Proとともにセットアップを行い、湿板原板のスキャニングを行うとともに、スキャニングの際の望ましい解像度を算出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度の研究計画は、①パソコン、スキャナー、プリンター等の取得とセッティング、②湿板ネガ原板の高精細度デジタルデータ取得の実験(オリジナルの湿板原板を含む)、③湿板ネガを安全にスキャンする方法の検討、④湿板写真ネガおよび鶏卵紙の写真的特性の計測。⑤ネガの作成実験(インクジェットプリンター、ピエゾグラフィー、コダック・デジタル・フレキソシステムなど)、⑥各技法による複製ネガからの鶏卵紙プリントの作成実験と評価、⑦湿板原板資料調査(国内所蔵者あるいは機関)などである。 このうち①~④については計画通りあるいはある程度進捗しているものの、②のうちのオリジナル湿板原板の高精細度デジタルデータ取得実験および⑤~⑦については、項目9で記述するように、新型コロナウィルス感染症流行やそれに伴う各種教育研究への対応のため未実施となっている。 項目5に記述するように、本年度の主要な研究は、湿板写真原板の復元制作と湿板写真原板がもつ写真的特性の測定、および湿板原板スキャニング時におけるスキャナーへのガラス原板セット方法や望ましい解像度について検討を重ねた。大判のガラス原板のスキャニングについては、これまでの経験値から、近代的感光材料であるゼラチンガラス乾板のスキャニングでは1200~1500dpiの解像度を用いていることも多い。しかしコロディオン感光板の解像度は極めて高く、復元制作したコロディオン湿板原板およびタンニン法による乾式コロディオン原板のスキャニング実験から、その情報量を十分に取得するためには2400dpi以上の解像度が必要であることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究計画は、①複製ネガからの鶏卵紙によるプリントの制作(諸条件の詳細な検討)、②湿板原板にダメージを与えず鶏卵紙に有効な波長の光源をもった露光装置の制作、③湿板原板に負荷をかけずに密着焼き付けを行うための手法の検討、④湿板原板資料調査(国内所蔵機関あるいは所蔵者、湿板原板のデジタルデータ取得可能か検討)、⑤海外の原板収蔵状況や復元プリント等の事例調査(米国所蔵機関等)である。 項目7で記したように、2020年度計画で予定していたデジタル系手法による複製ネガ作成実験、各種複製ネガからの鶏卵紙プリント作成実験も遅れているので、これらの実験を継続する。またこれらの実験および結果分析は2021年度にも予定されていることなので、さらに実験結果分析を深め諸条件の検討を行っていくとともに、②露光装置や③焼き付け方法の手法検討も実施する。 スキャナーによる原板の高精細デジタルデータ取得については、機器に付帯する通常のソフトウェアでは、大判の写真原板で必要となる大面積かつ超高解像度でのスキャンに対応できない。この点については、Epsonのスキャナーに特化した特殊な高性能ソフトウェアの開発が行われており、当該の会社および技術者と情報を交換し、2021年度に新たなソフトウェアを取得する予定である。 懸案の国内外の資料調査であるが、新型コロナウィルス感染症の流行は継続すると考えられるので、⑤海外資料調査は困難と思われる。しかし、国内については東京都の所蔵機関での調査と高精細デジタルデータの取得は実施する。加えて九州や北海道の所蔵機関での調査も実施できるように努めたい。
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Causes of Carryover |
2020年度に残額となったのは主として旅費および謝金等である。これは2020年度初頭から新型コロナウィルス感染症流行の影響により、調査を予定していた所蔵者、所蔵機関と調査日程や方法について調整が困難であったこと、また鶏卵紙の再現と焼き付けの実験等を行うにあたって予定していた協力者への依頼が困難になったことなどが理由である。 2021年度も同様の内容で研究が予定されているので、感染症予防に最大限の注意を行いつつ、国内の調査や技法実験などを実施する計画である。また項目8に記したように、新たなスキャナー用ソフトウェア導入が望まれるため、残額となった研究の一部をそれに充当する予定である。
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Research Products
(1 results)