2021 Fiscal Year Research-status Report
近代日本の地方都市における社会資本の整備と統治に関する社会・政治地理学的研究
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20K01158
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
遠城 明雄 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (00243866)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会資本 / 地方都市 / 統治 / 社会地理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本の地方都市における社会資本の整備と統治をめぐる諸集団の社会・政治過程を分析することにある。本年度はコロナウイルスの影響により、文書館と図書館での資料収集の機会が限定されたため、すでに収集済の史資料の再検討を中心に、以下の三点の研究を進めた。 ①福岡市における大正期の市長選考方法の変化を検討した。これまで市長は、多くの場合、地元有力者や在京の有力者などの話し合いによって推薦、選考されてきたが、大正後期に中央の政治状況の影響も受けて、地元の政治団体間の対立が深まったこと、および様々な社会資本の整備が遅れていたことで、その実現を可能する知識と手腕を備えた人物への期待が高まったことの大きく二つの理由から、従来の選考方法が機能不全に陥った。その結果、福岡県知事の調停により内務官僚が福岡市長に就任することになった。これは、地方都市における政治過程と統治の構造の変化の一事例として、位置づけることができるように考えられる。 ②福岡市における電灯電車市営事業化の動向について検討を行い、当該期の「公共性」の議論と私企業との関係を再検討した。買収に対する私企業側の抵抗、財源としての見通しの難しさなどからこの計画は頓挫したが、公共事業化の必要性に対する一定の認識が議会と市民に浸透する機会になったと考えられる。 ③地域の近代化に伴う公・共・私をめぐる社会・政治地理学の研究史について検討を行なった。特に社会資本の整備に伴う地域社会の変化と「共」の再構築などをめぐる議論は、日本の近代地方都市をより広い視点から考察する上で有効であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、予定していた資料の調査と収集(国立国会図書館、長崎県長崎市と佐世保市、広島県呉市、山口県下関市など)が限定的にしか実施できなかったため、進捗が遅れている。その一方で、福岡市についての資料調査および社会・政治地理学の理論研究の検討に関しては、予定通り進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、国立国会図書館、長崎市、佐世保市、呉市、下関市において、し尿処理、土地区画整理事業、各種の社会事業に関する資料の調査と収集を実施して、1920年代から30年代にかけての地方都市における社会資本の整備と統治をめぐる諸集団間の対立・妥協・協働をより多角的に分析する。また社会・政治地理学の研究史・研究動向に関して、特にフランス語圏の公共空間やテリトリーの議論を検討し、本事例の分析・考察に活用すると同時に、理論研究へのフィードバックを進める。 なお、上記の資料収集が困難になった場合、福岡県内での資料調査に重点を置く予定である。
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Causes of Carryover |
今年度もコロナウイルスにより、予定していた学会がオンライン開催になったほか、国内での資料調査も福岡県内にとどまった。次年度については、国外発表(フランス)、国内調査、資料購入などに充当する計画を立てている。
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Research Products
(4 results)