2021 Fiscal Year Research-status Report
A study on regional structure based on strategies for sustaining and developing agriculture in Japan
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20K01170
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田林 明 筑波大学, 生命環境系(名誉教授), 名誉教授 (70092525)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菊地 俊夫 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 客員教授 (50169827)
駒木 伸比古 愛知大学, 地域政策学部, 教授 (60601044)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 日本農業 / 存続・発展戦略 / 地域区分 / 等質地域 / 機能地域 / 多変量解析 / 地域構造 / 「農」資源観光活用ポテンシャル |
Outline of Annual Research Achievements |
既存の研究成果と農林水産省や地方農政局、都道府県の農政資料、そして現地調査から、日本各地における活力のある農業の実態と農業振興の方向性を探り、さらに、日本農業の存続・発展戦略の内容を示す要素(指標)を整理した。これまでの日本の主要な農業地域区分研究の成果から現在の市町村を統計単位とし、多指標を取り上げ、多変量解析によって地域区分を行うことにした。また、日本農業の存続・発展を一括りにするのは難しいので、(1)産業としての農業(高収益の農業)、(2)地域経済の1つの要素としての農業(観光などの他産業との組み合わせ)、(3)地域社会・環境維持のための農業、という3つの方向性を考えることにした。また、イギリスの農業地域区分研究を検討した結果、それまで土地利用などに基づき等質地域として区分されてきたものが、土地利用の分散化にともなってまとまった等質地域として区分することが困難になったことから、1990年代以降機能地域や行政単位の統計に基づかない区分が検討されてきた。これを参考に、東京大都市圏を対象に、「農」資源の観光活用のポテンシャルに関する等値線に基づく地域区分を試みた。 農林業センサスや農業産出額に関する統計から、農家と農業労働力、経営規模、土地利用、耕地の貸借、稲作請負、農業装備、生産性に関する37の指標を抽出した。結果として、暫定的であるが(1)農業発展型Ⅰ(大規模畑作・畜産)、(2)農業発展型Ⅱ(大規模稲作・野菜)、(3)農業発展型Ⅲ(野菜もしくは果樹)、(4)農業持続型(稲作単一)、(5)農業停滞型(稲作複合)、(6)農業後退型Ⅰ(都市周辺)、(7)農業後退型Ⅱ(中山間地)の7つ類型に基づく地域区分が得られた。(1)~(4)は産業としての農業の地域で、(6)は地域経済の1つの要素としての農業の地域、(5)と(7)は地域社会・環境維持のための農業の地域に相当する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
日本農業の存続・発展戦略の内容を検討するために、既存の研究成果や農林水産省などの農政資料の検討のほかに、新たな現地調査を広く実施し、そこで得られた知見を活用する予定であった。東京周辺や北関東、房総半島、渥美半島、中国山地での現地調査は実施できたが、九州南部や四国、北海道などでの現地調査は、新型コロナウイルス感染症の拡大によりできなかった。それに対して、既存の資料や統計、文献の検討などの室内作業は当初の予定よりもかなり進み、毎月のオンラインでの研究打ち合わせ会によって、研究代表者と研究分担者の相互の研究成果を交換し論点を整理することで、新たな農業地域区分のフレームワークを構築するなどの成果があがった。 データを全国レベルで収集・整理することについては、新型コロナウイルスの感染症の拡大の影響によって作業補助者を雇用することが制限されたが、かなり作業を進めることができた。そして多変量解析による全国の農業地域区分や、北海道を対象とした農業産出額構成による地域区分の経年変化に関する分析を行うことができた。ただ、現地調査による新しい知見が必ずしも十分でないことや、内外の学会への参加が制限されて研究発表や討論の機会が少なかったことなどから、分析結果の考察と解釈は不十分になった。このことから、全体として研究はやや遅れていると判断せざるをえない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年の農林業センサスや農業産出額の統計を用いた多変量解析によって、日本全体の農業地域区分の第1次案を完成させた。これをさらに精緻化するために、指標の再考や方法の改良を進めるとともに、その解釈とそれに基く農業の存続・発展の戦略を明らかにする。この多変量解析の結果は (1)産業としての農業(高収益の農業)という方向性によるものであり、このほかに(2)地域経済の1つの要素としての農業という方向性については東京大都市圏を事例に、「農」資源の観光活用のポテンシャルに基づいて、行政境の枠にこだわらず進める。従来の等質地域に基づくものに代わって機能地域に基づく地域区分の可能性も含めて、新たなフレームワークの農業地域区分を試みる。もう1つの (3)地域社会・環境維持のための農業という第3の方向性については、岡山県の中山間地域の事例を出発点として、全国に視野を広げる予定である。 さらに、それぞれの方向性をよく示す農業地域の現地調査が重要であり、それによって農業の存続・発展についての新たな知見を得ることや、農業地域区分のための指標を確認すること、得られる農業地域区分の結果を適切に解釈することが必要である。具体的には、(1)の例として、鹿児島県大隅半島、北海道の十勝平野や上川盆地のような収益をあげている農業の卓越地域、(2)の例として、観光農業が盛んな東京大都市近郊の多摩地域や横浜地域、(3)の例として、集落営農による地域社会の維持が行われている中国山地や四国山地などが考えられる。現地調査の成果と農業地域区分の結果について、日本地理学会や地理空間学会、イギリスの王立地理学会などの内外の学会の大会で発表し、専門家の意見を参考に研究を深化させ、論文として公表していきたい。そのために、これまで実施してきたオンラインでの研究打ち合わせをさらに強化し、可能であれば対面での研究交流を促進する。
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Causes of Carryover |
今年度は新型コロナウイルスの感染症の再拡大で十分に現地調査ができなかったことが、未使用額が生じた大きな理由である。官公庁や農業団体、農家などの被調査者と対面での情報収集が重要な部分を占める現地調査は困難となり、具体的な調査計画を立てていた南九州や北海道での調査も断念せざるを得なかった。また、参加・発表を予定していた学会の対面での学術大会や研究会のすべてが中止となり、研究打ち合わせのための出張も1回にとどまった。一部の学術大会はオンラインで行われ、研究打ち合わせもオンラインで実施したため旅費のかなりの部分は未使用となった。また、現地調査の際に予定していたレンタカー代金や空中写真や地図類、現地で入手予定の文献や統計類などに対する支出もできなかった。所属大学の危機管理方針により学生などを雇用することも限られた。次年度には、この未使用分を活用して、現地調査を実現し、学生等による資料整理・分析補助を得て、研究の促進を図る。また、研究成果の公表の費用にも使用したい。現地調査が十分に進まない場合には、必要に応じて研究協力者の助力を得ることにする。
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Research Products
(10 results)