2021 Fiscal Year Research-status Report
Cultural process of Vanuatu women 'Water Music' performers
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20K01185
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
諏訪 淳一郎 弘前大学, 国際連携本部, 准教授 (40336904)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 音楽 / 音響 / 水圏 / メラネシア |
Outline of Annual Research Achievements |
1)日本文化人類学会第55回研究大会において分科会発表「リ/ゾナンスへの人類学的アプローチ」を組織し、代表者として趣旨説明を行うとともに、バヌアツでの事例に関するデータ不十分であったので、コロナ禍以前に調査した同じメラネシアのパプアニューギニアのギターバンド音楽に関する事例報告を行った。趣旨説明では、本研究課題につながる「響き」(リゾナンス)を文化現象として取り扱うための理論的可能性について、同じ分科会で発表した4人の研究者とコメンテーターとともに検討した。この二つの発表により分かったことは、ウォーターミュージックにアプローチする際には、水の音響のありように十分な注意を払う必要があるとともに、その音響を媒介として生成する人と人とのネットワーキングの側面により詳細な注意を払う必要があるということであった。 2)フィールドワーク開始のめどが立たない中、学術雑誌Shima第16巻第1号において、巻頭論文Introduction: Watery Stigma, Vaporising Imaginary(2022年4月刊行)を執筆し、水圏の諸相と人間の活動関係性について掲載論文の批評を行うことにより、調査計画としてウォーターミュージックの実践においては単に液体としての水ないしは海やプールといったたまっている状態の水のみを考慮するのではなく、湿度や水しぶきあるいは逆に乾燥といったより複雑な水の実態とバヌアツ女性の存在について考察するべきであるとの示唆を得た。たとえば、水しぶきが上がる時に発生する波は、複数の演者によって行われる際には複雑な波形を生じるはずである。その水は、生み出す波形と演者とがアッサンブラージュすなわち一体化した状態として音楽が生成する時空間を抱え込んでいるのであって、両者を分離してそれぞれ分析をできないということを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
バヌアツへの入国のめどが立たないために、フィールドワークの実施はできなかったが、Mwerlepのコミュニティのウォーターミュージックの団体との接触を機会として、ウォーターミュージックの歴史について理解を深めた。すなわち、ウォーターミュージックは、本来はさほど大きな人数で演じられてきたものではなかったが、1980年代以降から次第に国外の耳目を集めるに至り、これを契機として演者の人数が増えていくとともに女性たちの間にウォーターミュージックを演じることそれ自体がMwerlep文化におけるジェンダー指標として表象化されていった経緯が存在することが分かった。このことは、超歴史的かつ文化本質的な構造としてウォータミュージックを把握することの誤りを示しており、ニュージーランドやオーストラリアなどでしばしば「伝統」として紹介されがちであることに照らしてポストコロニアリズムにおける言説構造との接合についても調査の対象に加えるべきであることがわかった。 上記のウォーターミュージックそれ自体についての理解をコロナ禍の制約の中で限定的にであるが深めることができたのと並んで、学術雑誌Shimaの編集委員として「アクアペラーゴ」の概念について査読を行い論文を執筆する中で考察を進めることができ、人と水圏および島嶼という地形的特徴の相互連関について探求を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
バヌアツのウォーターミュージックの団体とオンラインによる接触を行ってラポールの形成に努めるとともに、入国可能なオーストラリアにおけるメラネシア系女性の文化実践についての調査を開始することによって、バヌアツ入国が可能となった場合に速やかに調査を実行できるようにする。
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Causes of Carryover |
当初計画で夏と年度末に予定されていた海外出張が感染症拡大の影響によりすべてキャンセルとなったため、計上していた旅費ならびに渡航にかかる物品費(携帯電話借り上げ等)および国内移動旅費を執行することがなかったため。 次年度使用額の使途は下記の通り。1)オーストラリアにおけるメラネシア移民コミュニティの音楽性に関する民族誌的調査とおよびPhilip Haywardオーストラリア国立工大教授との研究に関する意見交換(8月~9月)、2)または可能であればバヌアツにおける当初計画で記載した内容の民族誌的調査(8月~9月または2月~3月)、3)ハワイ大East-WestCenterでのオセアニアにおける民族音楽学者との意見交換の実施(9月また12月)、4)国内におけるメラネシア研究者との意見交換、5)国内における水圏と音楽性の関連性に関する研究。これらの研究計画遂行のための旅費として使用する。
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Research Products
(2 results)