2020 Fiscal Year Research-status Report
Anthropological Study of Civil-Military Relations in Multiethnic Countries: The Case of Gorkha Soldiers in the Indian Army
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20K01194
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
上杉 妙子 専修大学, 文学部, 兼任講師 (90260116)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | インド陸軍 / ゴルカ兵 / ネパール / 多民族国家 / 民軍関係 / 軍の社会的代表性 / 市民権 / 市民社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、多民族国家における国軍の社会的代表性の偏りが民軍関係に与える影響について明らかにすることを目的としている。そのためにネパール市民及びネパール系インド市民から構成されるインド陸軍ゴルカ連隊の退役軍人を対象とした面接調査や行事の参与観察、文献調査によるデータの収集を行い、彼らが家族生活や親族関係、宗教生活、社会活動、公共圏との関わりなどにおいて展開する民軍関係の様態について分析する予定であった。 しかしながら、新型コロナ・ウィルス感染症の流行はインドでも猖獗を極め、令和2年度中に外務省による渡航制限が解除されることはなかった。そこで令和2年度は渡航をせず、国内で情報の収集とネパール語及びヒンディー語の語学学習、研究成果発表に専念した。情報収集として、軍務と市民権の結びつきや民軍関係についての先行研究を検討したほか、新旧インド軍の組織及び活動、その他インドの社会・文化・政治に関する情報の収集を実施した。その結果、①軍務と市民権の結びつきについての研究では市民権の文化的側面が十分には考慮されていないことや②民軍関係についての研究では兵士の民族帰属が十分には考慮されていないこと、③近世北インドで傭兵が名誉ある職業として見られていたことなどの重要な知見が得られた。また、日本文化人類学会第54回研究大会では「攪乱される『軍事』と『非軍事』の境界-英国陸軍グルカ退役兵による多層的かつ越境的な市民権交渉」と題する口頭発表を実施した。さらに、公益社団法人日本ネパール協会編『現代ネパールを知るための60章』(明石書店刊)では、「第15章 出稼ぎの先兵―グルカ兵とゴルカ兵―」(97-101頁)の執筆とクリシュナ・B・バッタチャン著「第16章 グルカ陸軍退役軍人組織の運動―個人的な追想と現状―」(102-107頁)の翻訳を担当した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は、退役ゴルカ兵が多く住むウッタラカンド州デヘラドゥーンにおいて、退役ゴルカ兵の家族生活や親族関係、宗教生活、公共圏との関わりについて聞き取り調査を実施するほか、ニューデリーのNational Archives of IndiaやNehru Memorial Museum & Library、Central Secretariat Libraryと、サウス・デリーのInstitute of Defense Studies and Analysis、デヘラドゥーンのIndian Military Academyにおいて関連新聞記事や公文書、報告書などを閲覧する予定であった。また、現地調査開始前に研究計画書、終了後には英文報告書を連隊関係者に配布することも計画していた。 しかしながら、新型コロナ・ウィルス感染症の流行はインドでも猖獗を極め、上記の調査を実施することはできなかった。そこで令和2年度は、「研究実績の概要」で述べたように国内での情報収集とネパール語およびヒンディー語の語学学習、成果発表活動に専念した。 新型コロナ・ウィルス感染症の世界的流行という未曽有の事態のために、予定した通りの研究は実施することができず残念であった。しかし充実した国内研究を実施し上述の研究成果を上げたので、「(4)遅れている」ではなく「(3)やや遅れている」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
インドへの渡航制限が解除された段階で、当初計画したように、退役ゴルカ兵が多く住むウッタラカンド州デヘラドゥーンに赴き、退役ゴルカ兵の家族生活や親族関係、宗教生活、社会活動、公共圏との関りについて聞き取り調査を実施する。可能であれば許可を得て連隊のヒンドゥ祭礼を見学し、連隊文化についての知見を得る。そのほか、ニューデリーのNational Archives of IndiaとNehru Memorial Museum & Library、Central Secretariat Libraryと、サウス・デリーのInstitute of Defense Studies and Analysis、デヘラドゥーンのIndian Military Academyにおいて関連新聞記事や公文書、報告書などを閲覧する。研究の意図を理解してもらい協力を仰ぐために、調査開始前にインド陸軍第五連隊関係者(各レベルの指揮官や退役士官)に研究計画書を配布する。調査終了後には、成果還元を目的として、現地調査終了後に英文報告書を第五連隊関係者に配布する。 しかし、令和3年度もインドにおける医療提供状況が改善せず渡航制限が解除されない可能性がある。その場合にはインド渡航を実施しない。そして令和2年度と同様に、国内で情報の収集とネパール語およびヒンディー語の語学学習、執筆活動に専念する。情報収集としては、民軍関係についての先行研究の検討と、インド軍の組織及び活動やインドにおける民族間関係、その他インドの社会文化及び政治経済に関する広範な情報の収集を、文献研究や関連学会・研究会への参加を通して実施する予定である。成果発表活動としては、グルカ兵(ゴルカ兵)雇用に関する書籍を刊行すべく努める。また、年度中に、広島大学現代インド地域研究センターにおいてこれまでの研究成果についての口頭発表を実施したいと考えている。
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Causes of Carryover |
令和2年度にはインドへ渡航し、聞き取り調査と文献調査を実施する予定であったので、旅費を計上した。しかしながら、感染症の流行の影響でインドに渡航できなかったため、「次年度使用額」が「0」よりも大きくなった。 令和3年度中にインドへの渡航制限が解除されれば、デヘラドゥーンにおいて退役ゴルカ兵の家族生活や親族関係、宗教生活との関りについての調査を実施する。そのほか、ニューデリーのNational Archives of IndiaやNehru Memorial Museum & Library、Central Secretariat Libraryと、サウス・デリーのInstitute of Defense Studies and Analysis、デヘラドゥーンのIndian Military Academyにおいて関連新聞記事や公文書、報告書などを閲覧する。助成金の多くを旅費として使用することになる。 しかしながら、令和3年度中も渡航制限が解除されず上記の研究が実施できない可能性がある。その場合には、国内において民軍関係などについての先行研究の成果の検討や、インド軍の組織・活動や民族間関係などインドに関する広範な情報の収集を実施する。合わせてゴルカ兵雇用についての成果発表活動も実施する。助成金は文献の購入や学会参加費、紙やプリンターのインクなどのために使用することになろう。
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