2023 Fiscal Year Research-status Report
Sustainable Use of South American Camelids and Indigenous Traditional Knowledge in the Andean Pastoralist Society
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20K01204
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
鳥塚 あゆち 青山学院大学, 国際政治経済学部, 准教授 (70779818)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ペルー共和国 / 牧民共同体 / 毛色名称 / 毛色調査 / 繊維企業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ペルー南部高地の牧民共同体を対象に、リャマ・アルパカの持続的利用の可能性と先住民社会の選択可能性を共同体の人びとの在来知・伝統知から考察するものである。2023年度は、8~9月に1ヶ月あまりクスコ県の牧民共同体で、3月に約3週間クスコ市とアレキパ市で現地調査を実施した。おもな成果は以下の通りである。 1)牧民共同体のフィールドワークでは、成員が1990年代半ばから取り組んでいる家畜の品質改良の動向と、アルパカの「白色化」に対する牧民の考えを中心に聞き取りを行った。また、アルパカの有色個体を色彩計で計測するとともに、色の民俗名称を採録した。参与観察は、人間と家畜の相互作用への理解を目的に、放牧時の家畜の行動と牧民の対応・言説に焦点を当てて行った。有色アルパカの色名称は、繊維企業や政府機関の分類を除けば体系的に報告された先行研究は1件しかない。白色への改良過程で有色個体が減少し、民俗名称に関する知識も失われつつあることを今回の調査で確認した。名称はFlores Ochoaの先行研究とおおむね一致したが、一部異なる名称も採録できた。さらに、色彩計を用いた獣毛色の計測により、主要な色については明度と色度をL*a*b値のデータとして記録できた。 2)都市での調査は、アルパカ繊維企業の獣医師および畜産関係の技術者へのインタビューを中心に行った。アルパカの有色個体回復に大きな進展はないものの、有色を専門に飼養する牧民もおり、また工芸品製作支援も開始されるとの情報を得た。近年では頭数や価値を減じているリャマについても、その価値を再考する動きがあることを確認した。 前年度と今年度の調査・研究の成果として、学会での報告および講演・講座での発表を行った。報告の内容と議論を踏まえ、調査の成果は次年度以降に論文として公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症流行の影響で遅れていた調査を進めるべく、2回の現地調査を実施した。とくに牧民共同体での聞き取りでは、報告例が少ないアルパカの色に関する有益な情報を得ることができた。当初、今年度に予定していたワークショップについても、共同体成員の合意を得ることができ、来年度に開催できる目途が立った。 他方で、繊維企業が所有する牧場と工場の見学は先方の都合によりかなわなかった。代わりに、クスコ市郊外にある羊毛織物工場跡を改築した博物館を訪れ、19~20世紀のクスコ県における織物生産の状況を、部分的にではあるが知ることができた。しかしながら、ラクダ科動物の織物生産状況については調査が不足していると言える。また、補足的に実施する予定の日本でのアルパカ毛流通についての調査も、思うように捗っていない。 よって、総合的に「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、8~9月にかけて1ヶ月半の予定でペルーでの現地調査を実施する。牧民の在来知の継承と、人間と家畜との関係に焦点を当てた牧民共同体でのフィールドワークが、渡航の主たる目的となる。その一環として8月半ばには、共同体で牧民・技術者・企業担当者が集うワークショップを開催する。今年度に実施できなかった企業の牧場および工場の見学も実現できるよう、積極的に働きかけていく。 人間と動物の関係を扱った民族誌や、南米ラクダ科動物改良に関するプロジェクト成果物、牧民の生業および生活の変化について論じた論文・文献等の資料収集も継続する。 2024年度は本研究課題の最終年度に当たるため、積極的に成果を公表する。ワークショップの内容についても記録をとり、共有の成果とできるよう書籍等での公表を計画する。
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Causes of Carryover |
海外調査を二度実施したが、当初の予定に渡航回数が満たないことから、旅費での未使用額が発生している。また、ワークショップ開催に係る人件費も未使用である。 次年度は現地調査を一度実施し、そのなかでワークショップを開催するため、繰り越し分を旅費と人件費に充当する。次年度が最終年度となるが、未使用額が大きい場合は研究期間の延長も念頭に置いて、とくに不足している日本国内での情報収集も積極的に実施する。
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Remarks |
鳥塚あゆち「家畜に合わせて生きる:アンデス牧民と動物との相互作用に関する予備的考察」『アンデス・アマゾン学会研究発表要旨集』第12号、2023年、pp.9-10、アンデス・アマゾン学会 鳥塚あゆち「ラテンアメリカ研究と私」滋賀県立虎姫高等学校連携講座、2023年
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