2020 Fiscal Year Research-status Report
Anthropological Study on Aging and Gender in Contemporary India
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20K01209
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
菅野 美佐子 青山学院大学, 地球社会共生学部, 助教 (80774322)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
押川 文子 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 名誉教授 (30280605)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | インド / 文化人類学 / ジェンダー / 高齢者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、急速な経済成長や情報、技術等の発達、人の移動、核家族化などが見られる現代インド社会において、社会変化の中で周縁化されるばかりでなく、社会や家族と能動的につながろうとする高齢者の生活実践の諸相を解明することを目的としている。これらを明らかにするために、本研究ではインド農村および都市社会を対象とした人類学的調査を基礎とし、社会学や統計学的研究も有機的に関連づけながら、高齢女性の実態をモビリティ、消費、行政サービスの利用状況、身体的・知的感覚や感情への対処などの多角的な観点から分析する手法をとっている。 令和2年度は新型コロナウィルス感染症拡大の状況を鑑み、現地調査を断念し、日本国内での文献資料及び統計データや新聞による高齢者の実態を人類学、社会学、あるいは歴史的な観点から整理を進めるにとどまった。また、インドの現地新聞などからパンデミック以降の現状分析を試みた。本研究実施以前には、高齢者による娯楽や親族との面会を目的とした地域間の移動が見られたが、今般のパンデミック状況に伴い、外出の制限など、高齢女性の行動は国家や社会の厳しい管理下に置かれるようになった。そればかりか、それまで高齢者の住居に定期的に訪れていた家族や家政婦の行き来も制限され、高齢者の孤立とケアの欠落も問題視されている。これに伴い、通信技術へのアクセスが重要視され、高齢者にもメディアリテラシーの向上が呼びかけられる一方で、家族や友人との実際の身体的な接触によるコミュニケーションやケアの欠落などの問題は解消されるものではなく、高齢者にとって深刻な課題であると言える。 以上のように、高齢者の状況がわずかな期間で一変したことを受け、今後の研究の方向性を改めて検討する必要があるものの、インド社会における高齢女性のレジリエンスを視野に入れた本研究は、ますます重要な社会的意義を持つと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究事業の初年度となる令和2年度は、当初の予定では2020年8月から9月にかけて、現地でのフィールドワークを実施し、収集したデータを整理した上で学会報告等を行う計画となっていたが、新型コロナウィルスの感染拡大によって、渡航が不可能であったため、フィールド調査は実現しなかった。その代わりとして、研究分担者とともに定期的なオンライン研究会の開催及びメール等でのやりとりを通じて、研究テーマに関する文献資料の収集と整理、今後の研究の進め方についての議論等を行った。また、インド政府が公開する全国家族健康調査や国勢調査を含む入手可能な統計データや、'India Today'、'Times of India'、'The Hindu'といったオンライン出版の現地新聞などでの情報収集と整理も同時に進めた。この作業によって、高齢女性をめぐるインド社会全体の現状を俯瞰的に把握するとともに、今後実施する予定である現地調査でのミクロなデータの位置づけをより明確に理解することが可能となった。また、パンデミック以降に高齢者に浮上した問題点やそれに対する取り組み、及び、当事者である高齢者の反応や対応等について、どのように調査を進めるかといった課題も見出すことができた。 本年度は収集した資料やデータをもとに、代表者が人間文化研究機構「南アジア地域研究推進事業」の国立民族学博物館拠点での研究報告を行い、同機関にて出版予定の刊行物への論文を執筆した。本出版物は2022年3月に刊行される予定となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究実施においても、インドでの渡航調査がきわめて困難であることが予想されることから、渡航費として計上していた予算で、フィールドの安全性を十分に考慮した上で、現地の調査会社に必要な調査項目に関するデータ収集の代行を依頼することを検討している。これにあわせて、現地新聞や高齢者が関わっているソーシャルメディアなどにアクセスして情報の獲得を試みる。ただし、このような手法を用いた場合、本来研究上の対象としていた人々のデータを収集することは難しく、対象の変更も検討する必要があると考える。 以上を踏まえた上で、本年度は、高齢者のモビリティ、消費動向、行政サービス(年金、医療他)の利用状況、家族形態と家族内での役割などに関する調査項目を立てて、コロナ以前と以降の双方についてのアンケート及び聞き取り調査を試みる。加えて、上記であげた項目についてソーシャルメディアでは高齢者の間でどのようにコミュニケーションがなされているのかを分析する。 これらの情報や資料の分析を通じて、南アジア学会にて研究報告を行うほか、新たな論文の執筆に向けて研究分担者とともに協議を進める予定である。
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Causes of Carryover |
本研究事業の初年度となる令和2年度は、当初の予定では2020年8月から9月にかけて、現地でのフィールドワークを実施する計画となっていたが、新型コロナウィルスの感染拡大によって、渡航が不可能であったため、フィールド調査は実現しなかった。加えて、国内での研究会や学会もオンライン開催に変更されたため、旅費として計上していた予算が全て未使用となり、助成金の使用額が大幅に減じた。 令和3年度は、前年度に未使用となった分と、当該年度に渡航費として計上していた予算をあわせて、現地の調査会社にデータ収集を依頼する予定である。
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Research Products
(1 results)