奈良盆地の祈雨（雨乞）祭礼の歴史的変遷の解明にむけた基礎的研究

2020 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 20K01217
• Research Institution: Nara Women's University
• Principal Investigator: 宍戸 香美 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (00637861)
• Project Period (FY): 2020-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: 祈雨 / 雨乞 / 奈良盆地

Outline of Annual Research Achievements

本研究は、奈良盆地内のいくつかの祈雨（雨乞）祭礼について、その歴史的変遷を検討する基礎的研究である。初年度である本年度は、研究の基礎となる作業として、奈良県内の市町村史（自治体史）を利用し、奈良盆地の祈雨（雨乞）祭礼の事例の収集を行った。
事例の収集作業は途中であるが、現在までの収集作業の結果、盆地の平野部地域であっても、水源地である盆地周縁部や山間部地域にたいして祈雨（雨乞）を行う事例が多くみられることがわかってきた。奈良盆地の北半部に関していうと、たとえば春日香山、東山中、生駒山、郡山丘陵といった地域に関して、特徴的な祈雨の祭礼や雨乞に関する民俗事例がみられる。これらの特徴的な傾向をみせる地域に注目して、事例収集、史料調査を深化させる計画である。
また、次年度以降も引き続き奈良盆地の祈雨（雨乞）祭礼の事例収集を進め、奈良盆地全体の事例を集成し、それらの事例のデータ化を進める。そのうえで、奈良盆地の祈雨祭礼のなかでも文献史料からの分析が可能な事例を抽出し、祭礼を形成した多様で重層的な歴史的要因を地域ごとに整理・検討することで、祭礼の歴史的変遷を解明することを目指す。
現在、日本では新型コロナウィルス感染症の流行がおさまらない状況にある。この間の感染症の流行が奈良盆地内各地の祈雨（雨乞）をはじめとする民俗行事や祭礼にどのような影響を及ぼすのかを今後検証していくうえでも、民俗事例の収集・集成を行っておくことには意義があると考えている。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

本研究課題は、奈良盆地内の祈雨祭礼について、その歴史的変遷を検討することで、盆地内の地域間の影響関係を解明するための基礎的研究を行うことを目的とする。採択初年度である本年度は、基礎作業として、奈良県内の市町村史を利用し奈良盆地の祈雨祭礼の事例の収集を行った。
具体的には、自治体史から民俗事例を採集する作業を中心に行った。旧版の自治体史や小字レベルの地誌などにも目配りをしつつ作業を進め、盆地北半部に関して凡その作業を終えた。採集した事例はExcel表に入力してデータ化し、事例に関する資料は紙ベースでファイリングを行っている。当初計画では、本年度から収集した事例の資料整理とデータ入力のためのアルバイトを雇用する予定であったが、新型コロナウィルス感染症流行の影響でアルバイトを雇用することができず、研究代表者自身がこれらの作業を進めた。そのため、事例収集作業の進捗が当初計画より遅れ、奈良盆地北半部の事例収集にとどまっている。
また、当初計画では本年度から収集した事例に関しての史料調査を実施する予定であったが、新型コロナウィルス感染症の流行により出張を見合わせたため実行に移せていない。同様に、民俗事例の現地調査も数例おこなう予定であったが実施できていない。インターネット上で調べたところ、各地で行事・祭礼が中止となり、開催されても部外者の参加を認めないケースが多く確認できた。また、行事・祭礼への部外者の参加は感染拡大の契機ともなりかねず、以前より関係性が構築できている事例・地域以外は参加を見合わせるべきと考えたため、現地調査の実施は感染状況の鎮静化を待つこととした。

Strategy for Future Research Activity

本研究課題採択初年度である本年度は、奈良県内の市町村史を利用して奈良盆地の祈雨祭礼の事例の収集を行ったが、７で述べたように作業の進捗が当初計画より遅れ、奈良盆地北半部の事例収集にとどまっている。次年度はまず、盆地南半部について、本年度と同様に自治体史から民俗事例を採集する作業を進めていく。その際、アルバイトを雇用し作業のスピードアップを図る予定である。本研究課題の研究期間前半の成果として、奈良盆地全体の雨乞事例を集成しデータ化することを目指していく。
その作業を通じて、文献史料を中心とする史資料からの分析を十分に行いうる事例を抽出する。すでにある程度の分析結果を得ている薬師寺龍王社の事例の他に、三もしくは四事例程度を抽出して検討することを目標とする。
上記の作業をふまえて、次年度は史料調査を開始する。公刊史料や目録、ウェブ上で公開されている情報を最大限に利用しつつ、必要に応じて史料保存機関での調査を行う。その際は新型コロナウィルス感染症の流行の状況を注視し、利用可能な公的機関を中心に調査を実施する。
なお、本研究課題では、研究期間の後半に民俗事例の現地調査や地理的調査を実施する研究計画をたてていたが、調査の可否や実施時期は、新型コロナウィルス感染症の流行の状況をみて判断する。流行がおさまらない状況が次年度以降長期的に続くようであれば、研究計画の変更も必要になると考えている。次年度は、感染症流行の状況を注視しつつ、研究の方針および展開について様々な可能性を検討しながら研究を進めていく。

Causes of Carryover

旅費；新型コロナウィルス感染症流行のため、調査の実施を見合わせた。そのため旅費が執行できていない。次年度以降の執行計画は、①史料調査旅費と②現地調査旅費として使用する。①は、県内公的機関・施設での史料調査を中心に実施し、遠隔地への史料調査は、社会活動の再開状況にあわせて実施していく。②は、８で述べたとおり新型コロナウィルス感染症の流行の状況をみて判断する。
人件費・謝金；本研究課題が採択された時点で新型コロナウィルス感染症が流行しており、新たにアルバイトを探すことが困難な状況であったため、本年度は雇用を見合わせた。そのため、人件費が執行できていない。次年度からアルバイトの雇用を開始し、資料整理を進めていく計画である。また、次年度以降、史料調査の一環で専門技術指導・補助等に対する謝金を使用する予定である。
物品費・その他；新型コロナウィルス感染症流行の影響と所属部局の教室変更で研究環境が流動的であったため、本年度はパソコンの購入を見合わせた。パソコンやPC用ソフトの購入は、次年度前半に行う予定である。