2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K01219
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
高橋 そよ 琉球大学, 人文社会学部, 准教授 (60772829)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | サンゴ礁漁撈文化 / アクションリサーチ / コミュニティアーカイブ / 生物文化多様性 / 沖縄 / 琉球弧 / 資源利用 / 生態人類学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、歴史生態学的アプローチによる「漁具」の資料学的分析から、島嶼コミュニティが経験してきた環境史を構築し、社会経済的な動態に対して、島に生きる人びとは、どのように漁具をはじめとする自然利用を工夫し、生業経済や漁撈技術を変容させてきたのかを明らかにすることを目的とする。そして、琉球弧における自然と人とのかかわりの多様さを探求するための基礎的調査として、サンゴ礁資源利用の実態を資料としてできるかぎり詳細に記述し、その過程で人々の持っている海や魚の生態に関する民俗知、漁法と漁場選択、さらに漁撈活動の社会経済的諸要素との関係とその地域的な変遷を考察する。
2023年度は、聞き取り調査によって明らかになった、新たに創出される「貝殻」の流通ネットワークの生成に焦点をあて、鹿児島県与論町と三重県で調査を行った。貝類は、人類史において古くから交易品として利用されてきた自然素材の一つである。しかし現在、琉球弧に限らず、日本各地で、貝類など底生生物が生息する海草藻場の消失が深刻化している。聞き取り調査により、このような環境変動に対して、漁民たちは新たにネットワークを形成し、道具(民具、もの文化)と技法を編み出していることがわかった。本調査では、このような文化創造と社会的ネットワークのレジリエンスに着目し、島を繋ぐライフヒストリー(ナラティブ)の聞き取り調査と技法の映像記録を開始した。次年度以降も継続的に調査を行い、自然の恵みと災いに関する地域文化と継承に対するコミュニティの生存維持機構の理論化を試みる。
研究成果の発信として、国際学会発表を2本、国際誌への投稿を行った。また、自然素材を用いる物質文化研究や実践者などの異なる専門家と共に対話をしながらフィールドワークを行う「フィールドダイアローグ」という手法を検討し、伝統的な技法とモノ文化の継承のあり方を検討するプラットフォームを立ち上げた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は基礎資料の収集を進めることで、地域の方との信頼関係の構築と協働調査の展開、国際シンポジウムでの発表など、国内外の研究者との物資文化研究の可能性について議論することができた。
前年度から引き続き、鹿児島県与論島を中心に、新規参入した若手漁師から現役、そして引退した古老など、さまざまな経験を経てきた漁師や漁協等へ積極的に聞き取りを行った。また地域の方と共に行なっている「島の自然と暮らしを考える古写真調査」では、島の流通や産業構造が大きく変化した1960年代以降から現在に至るまで、約5,000点の写真が提供された。与論町教育委員会と国立歴史民俗博物館と資料保全公開に関する覚書を交わし、これらの資料整理と公開準備を行なっているところである。2024年2 月には、これらの資料群から「働く」をテーマに写真を選定し、町内で参加型の写真展を開催した。
これらの研究成果を、1)The 10th East Asian Island and Ocean Forum 2023(2023年12月、韓国)、2)韓国国立民俗博物館・国立歴史民俗博物館写真デジタルアーカイブ研究会(2024年1月、韓国)で発表した。地域の文化と歴史の記録に関するコミュニティベースの取り組みと、デジタルアーカイブの活用について情報交換と議論を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度にCOVID-19パンデミックの影響を受けて、島でのフィールドワークを実施できなかった影響から、本研究機関を1年間延長申請を行った。このため、最終年度になる2024年度は、これまで得られたデータを整理し、論文の執筆と国際学会での研究成果発信を行う。
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Causes of Carryover |
研究成果発信の一つとして、鹿児島県与論島の方と共に企画した「ゆんぬ古写真」は3回目を迎え、持続可能な展示方法を検討した結果、当初計画よりも低コストでの展示が可能となった。このため、計上していた物品費を抑えることが可能となった。
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