2022 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Interaction of Theory and Policy of Art: Toward Critical Collaboration of Research and Practice
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20K01226
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小長谷 英代 早稲田大学, 社会科学総合学術院, 教授 (60300472)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アート / フォーク/フォークライフ・フェスティヴァル / アーツ・フェスティヴァル / 文化政策 / スミソニアン・フォークライフ文化遺産センター / アート市場 / パフォーマンス理論 / アメリカ文化人類学・民俗学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は近代のアートの階層的概念化・理論化における領域の歴史を再考し、これに対するアメリカ文化人類学・民俗学の研究と実践を捉え、公共文化としてのアート研究の意義や研究者の役割を考察していくことにある。アートの定義、言説、表象における、(1)理論、(2)政策、(3)理論・政策の相互関係と研究者の位置性に注目し、研究と実践の多層的な文脈に探っていくことを意図している。 2022年度の研究は、(3)を中心とし、文化人類学・民俗学のアートの(1)理論、(2)政策について、歴史、社会、政治、経済等、より多層的な文脈から捉え、「アート」とグローバル経済の関係について、広範な観点から考察を進めている。2022年度はさらに具体的な文脈に注目し、近年の動向、その歴史的経緯等について、オンライン上の実践やアーカイヴ等の文献や情報を探り、踏み込んだ分析を実施している。中でも1990年代前後から「アート」の「フェスティヴァル」を主とした「イヴェント化」による「アート市場」がグローバルな規模に急速に発展していることに注目している。今や「アート」が創造産業・創造都市等、文化経済学的観点を主軸とする政策的・制度的枠組みに語られるようになっていることは、文化人類学・民俗学の「アート」へのアプローチに極めて重要な再考を迫るものである。この考察において重視しているのは、両領域の学術的議論において、必ずしも「アート」の現実におけるこうしたグローバル経済の力を本格的に追究するに至っていない中で、スミソニアン機構の「フォークライフ遺産センター」が1967年度以来企画開催している「スミソニアン・フォークライフ・フェスティヴァル」の取り組みが政策と実践、さらに研究者とローカル・コミュニティ、政府機関、政策関係者、観光業を含む民間組織の関係を追究すべく新鮮かつ重要な視座となっていることであり、今後の研究の焦点となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
上記「研究実績の概要」に示したように、2022年度の研究は、(3)を中心として文献と関連資料等の理解に取り組み、特に文化人類学・民俗学のアートの(1)理論、(2)政策を、歴史、社会、政治、経済等、多層的な文脈から捉えるべく、公共の文化組織、および「アートワールド」による「アート」の表象や実践における経済的な作用・影響やシステム等、より広範な観点について考察を進めている。 2022年度は具体的な文脈に注目し、特に近年の動向、その歴史的経緯等について、多様な観点や展開を把握すべく、視覚、映像・音声メディアを含む、様々な文献や資料を探り、踏み込んだ分析を試みている。限りないイメージやテクストが拡散・流動する中で、本研究の焦点となる主な文脈、特に公共の文化政策関連組織や制度、「アート」に関する文化人類学者・民俗学者の理論的発展、「アート・ワールド」におけるグローバル経済化/市場化の具体的実践の流れを捉え、それぞれの文脈の方向性や関連性を探っている。 新型コロナウィルス感染拡大の対応として、特に「フェスティヴァル」を主とした「アート」の政策や実践についての、オンライン化が急速に進んでおり、むしろ対面の実践では得られないより多層的な情報が得られ、上述の政策・制度、理論的発展、具体的実践の動向について重要な理解を深められたと言える。 今後は、さらにこれらについて、その言説や表象についてより詳細な考察が必要になると同時に、これまでの研究においては、フィールドワークに基づく実践的、経験的な調査が欠けており、これを満すべく現地調査を進めていくことが重要になる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、前年度まで渡航制限および研究代表者の私事(健康・介護関連)によって実施できないでいたアメリカでのフィールドワークに本格的に取り組んでいきたい。一方、上記「現在までの進捗状況」に示したように、新型コロナウィルス感染拡大の対応として、特に「フェスティヴァル」を主とした「アート」の政策や実践の在り方自体に、研究課題の構想時には、予期していなかった大きな変化が起こっている。「スミソニアン・フォークライフ・フェスティヴァル」が全面的にオンライン上で開催された2020年度、2021年度を経て、2022年度には現地での対面およびオンライン上でのハイブリッド形式が実施され、2023年度も同様にハイブリッドで開催される。2024年度もハイブリッドで開催されることは、感染対策による制限が主因になっているというより、むしろ、「フェスティヴァル」を会場での体験だけでなく、オンライン上の多様なメディアを複層的かつ相関的に活用する新しい実践として試行されていると言える。したがって、現地での対面の実践と、オンライン上での実践、両者の関係性や位置づけ等、全体的な構成や機能、またその作用や意味等、多元的な考察が求められる。 調査のタイミング等に関わる諸状況を踏まえ、調査対象として、スミソニアン文化遺産センターに加え、他の公的文化組織によるフォークライフ/フォーク・フェスティヴァルや民間のアーツ・フェスティヴァル等も調査の対象として選択肢に含めておきたい。 またそれまでの研究の成果として2022年度にはアジア研究学会(Association for Asian Studies)の年次大会でオンラインによる発表を行ったが、2023年度にはアメリカ民俗学会(American Folklore Society)の年次大会開催地での対面発表を計画している。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたことにおいては、2022年度まで、新型コロナウィルス感染拡大による日本・アメリカ政府および所属大学による渡航制限がなされ、また下記に示す事情から研究代表者の健康上の不安もあり、本研究課題に当初から計画していた予算の大きな部分を占めるアメリカでのフィールドワークが実施できないでいたことが主要な理由である。 また2020年度から2022年度の期間において、研究代表者の病気入院・健康不良に加え、家族の介護等、私的事情が重なったことがさらに大きな理由になっている。 2023年度には、渡航制限も解除され、調査地アメリカの感染状況も沈静化しており、次年度使用額については、主にこれまで実施できないでいたワシントンDCを中心としたフィールドワークでの調査とオレゴン州・ポートランドで開催される学会発表の渡航費にあてていく計画である。
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