2020 Fiscal Year Research-status Report
保護施設の人類学 - 社会的保護から捉えるポスト家族の可能性
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20K01228
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
山口 薫 (桑島) 名城大学, 経営学部, 准教授 (50750569)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 女性の社会的保護 / 暴力 / 保護施設 / 共同性 / 親密性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本における女性の保護施設を事例に、社会福祉の現場からみえてくる「家族の機能不全」や「家族の欠損」とは何かを問い、新たな関係性や共同性の構築を文化人類学的に探求することにある。初年度は、女性の社会的保護を多角的に捉える基盤として、ケア、共同性、親密性に関する文献調査を進めた。基礎文献、理論書に加えて、実際に女性の保護に携わる団体の発行した著書、報告書などを基に、事例を研究した。また関連団体のzoom講演会などに参加し情報収集をした。 入所女性の多くは「家族」のなかでの暴力、虐待を経験しており、保護施設から自立生活へと移行する過程でグループホームなどの共同生活が重要な役割を担っている事が報告されている。彼女たちの「回復」や「自立」を目指した諸実践の一方で、社会福祉制度が想定する「回復」「自立」から「はずれた」行動のなかに「回復」の兆しがみてとれることがあるという報告もあった。 新型コロナ禍のなか、2箇所についてインタビュー調査を実施できた。依存症の女性のための保護施設の職員、DV被害者シェルターのスタッフに対し、入所者の様子、支援の現状や課題などについてヒアリングし、「自立」「回復」という概念について相対化を試みた。また困窮した女性たちはSNSの利用によって必要な情報を入手するなど、保護をとりまく状況が大きく変化していることがわかった。 入所者についての研究では、当事者へのインタビューはまだ実施できていないため、過去の保護施設でのフィールドノートをもとに「他者の痛み」と調査者との関係について、哲学的概念を援用しつつ考察した。 以上について研究発表を行い、また研究協力者(2名)とともに、親密性、ケア、共同性、家族などについての文献調査を行い、それぞれの関心から理論化の作業を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度は文献調査および実地調査を予定していた。新型コロナウィルスの感染の広まりにより、とくに2020年度は北海道および大阪、愛媛県で予定していた調査の実施が不可能となった。zoomなどでのインタビューは可能であるが、現場で繰り広げられる営みの観察、訪問して得られる臨場感などは、オンラインでは把握できないため、実際にフィールドワークをせねばならない。それらの実地調査が実施できなかったことは研究にとって痛手であり、進捗が大幅に遅れる原因となった。 調査対象予定の団体と連絡をとりつつ、引き続き状況をみながら可能になった場合に調査を実施する手配はしているものの、県をまたいでの移動規制の状況をみながら調査依頼をしているため、予定よりも遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
現地への移動が可能になったらすぐにフィールド調査が可能となるよう、主要な調査対象にはコンタクトをとってある。また、必要に応じて、対面インタビューに代わり、zoomインタビューの許可も得てある。状況をみながら、すぐに動けるように連絡をこまめにとりながら準備をしていきたい。予定している訪問先は、北海道、愛媛、神奈川、大阪府などにある保護施設やグループホームである。 研究の方向性として、グループホームや保護施設での共同性をロマン化することなく、理論と実地調査をもとに、ケアや共同性を、近づくことではなく、遠ざける/遠ざかることから見て行くこととし、そこから共同性に変わる概念を探求していく。 女性の保護施設としての活動を調査する一方で、保護施設の負の側面にも着目する。神奈川県にある女性の保護施設の草分け的存在である施設が閉鎖することを受け、閉所にいたった背景や原因を調査し、女性の保護施設の存在意義を補完するデータを収集する。 また、2021年度は研究協力者との研究会を開催し(必要であればzoomとする)、研究の報告および議論を行い、さらに共同性、親密性についての事例研究を踏まえつつ、理論化の作業を継続する。
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Causes of Carryover |
2020年度に、主に北海道で予定していた現地調査およびそれに伴うテープ起こし等の作業依託費、また研究協力者との打ち合わせが、新型コロナ感染拡大で不可能となり、現地調査はキャンセル、打ち合わせはzoomで実施となり、予定されていた調査費用を大幅に下回ったため。 2021年度は、調査訪問先と連絡をとりつつ、状況をみて可能になればすぐに動けるように準備をしている。また、現地訪問が無理な場合は、zoomでのインタビューに代えて行う。
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Research Products
(10 results)