2020 Fiscal Year Research-status Report
Culture of the Sea seen from the Andean Highlands
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20K01232
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
加藤 隆浩 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (50185849)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アンデス諸国 / 山の文化 / 海の文化 / 招来儀礼 / 交換 / 航海 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、新型コロナの蔓延で世界中が大混乱に陥った。日本ではこの研究の舞台となるアンデス諸国(エクアドル、ペルー、チリ)の状況に関して、あまり報道がなかったが、途方もない数の感染者・死者が出ており、移動禁止令、戒厳令、国境封鎖等々の施策が矢継ぎ早に発せられ、1年以上経過した今現在も新型コロナの猛威は吹き荒れている。 2020年はそうした状況下で、フィールドワークによる実証主義的研究はどうすべきか考えさせられる1年であった。現地に入れない、また、入れたとしても感染リスクが極めて高く、ヘタをすれば命がけになるかもしれない状況で、結局、現地調査に固執していては、何も前に進まないと考え、内外の4名の研究協力者と相談の上、2020年度はとりあえず手持ちの資料の分析の再検討をすることとし、とりわけ20世紀初頭の歴史文書や、これまで地方の新聞やパンフレットのような媒体に注目し、2年目に予定していた研究を前倒しして研究を実施した。 その結果、研究代表者・加藤隆浩と現地の研究カウンターパート、ウィルフレド・カプソリは20世紀初頭の「インディヘナ擁護協会」が刊行した小冊子の中に、本研究に関わる漁村の記事を見つけ、同時代の漁村と農村との関係を分析する手がかりを得た。その派生的産物として、もう一人のカウンターパート、ルイス・ミリョネスは海岸地域の祭礼に注目し、これまで蓄積してきた民族誌的資料を基に、海の儀礼のシンボリズムを解明しようとしている。その成果の一部は、2021年度、オン・ライン講演会として発表されることになっている。国内の研究協力者2名は、アンデス高地の他界観、聖人像起源譚と海中で行う聖人儀礼の分析から、海岸地域との関連を示唆するようなデータがないか検討し、ともに、山間の文化でありながら海の要素が色濃く残っていることを再検証し、それを論文に仕上げる準備に着手するところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度はその開始から新型コロナウイルスに翻弄された。本研究は現地調査を基とした実証研究が軸をなし、愚直に事実を積み上げることで、前のめりになっている定説、理論構築に異議申し立てをするというスタンスをとるので、フィールドワークを封印しての研究とならざるをえなかった。つまり、調査を予定していたエクアドル、ペルー、チリにおいて軒並み、国境封鎖、戒厳令、終日の外出禁止令、入国時の15日間の検疫隔離宣言の発出と続き、加えて、そうした施策がどんどん延長された。他方、航空機の無期限運休・航空会社の倒産もあった。しかも、高止まったままの感染者数・死者数等々が次々に公表され、また足元の日本の窮状も含めると、とても調査に出られる状況では無かった。そこで、内外の研究協力者とも相談の上、2020年度の調査は、次年度以降に実施しようとしていた歴史関連の課題を行うこととした。具体的にはこれまで、あまり議論されてこなかった20世紀初頭の「先住民擁護協会」が刊行してきた1000ページを超える文書の読み返しを行い、そこから海民、海の文化、農民と海民との関係などについて情報を整理すること、またこれまで現地調査で貯めてきた宗教儀礼に関する手元の材料から、どのようなことが引出せるのかの洗い出しをすることとし、可能であれば、中間発表的なまとめを行い次年度以降の調査・研究につなげていこうと考えている。なお、今年度は調査ができなかったので、とりあえず、予算の執行をしなかった。先行きが不透明な研究事情で、中途半端な予算執行をして、ここぞという時に資金不足となるのを避けたいという思いからであり、必要がないわけではない。この研究がターゲットとしているペルーをはじめとするアンデス諸国のネット環境は必ずしも良いとは言えないが、メールは十分に使えるので、細かな意見交換などに重宝している。
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Strategy for Future Research Activity |
この研究は、進捗の過程に合わせ1)資料蒐集段階 2)資料検討段階 3)資料解釈・考察段階の3段階に分けて遂行し、各々が2020、2021、2022年度にほぼ対応させる予定であった。しかし、2020年度は新型コロナ禍のため、研究対象のアンデス地域での調査はもとより国内での研究にも大きな支障をきたし、民族誌学的データの収集とその解析を内容とする研究活動を予定通りに進めることは困難な状況となった。そこで、研究協力者等とも相談の上、研究の遅れを挽回すべく、以下のように予定を修正することにした。 2021年度は、研究代表者・加藤隆浩を含めた総勢4名の研究者をフルに動員し、エクアドル・チリ・ペルーの3班に分け、それぞれの専門分野ごとに歴史文書の解析を先行させ、可能であれば現地でのフィールドワークをできるところから実施していく。調査・研究の対象時期は植民地末期(1800年)から現在までだが、加藤は、研究協力者等と20世紀初頭からの古写真をすでに解析しており、それを基礎資料とし、まだ写真が存在しない19世紀の解明には歴史文書の分析、また、民族画像では充分な情報が得られない部分には、コロナ禍の収束を待って行う予定の調査データの補強により最終的には、この計画の目的、アンデス文化史を再考する手懸りをつかむ。要は、現地調査をすぐには必要としない歴史資料の収集とその分析に力点を置き、その作業に全力を投入する。 以上の計画は、2020年度末日時点のものであるが、今後、調査予定地のコロナ禍の状況が一転し調査が可能となったら、研究協力者の増員、一回当たりの調査期間の延長などを視野に入れ、研究の質の維持を担保しつつ、研究の遅延も引き起こさないよう努めたい。
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Causes of Carryover |
この研究は、事実を積み上げ先行研究を検証していくなかで、これまで当然とされてきた仮説を刷新していく実証研究である。したがって、本研究は何よりも現地調査に基づく詳細な民族誌学的データを必要とするが、昨今のコロナ禍により、この研究の舞台となるアンデス諸国(エクアドル、ペルー、チリ)は早々と緊急事態措置を講じ、国境の全面封鎖、ロック・ダウン、戒厳令、緊急事態宣言などを矢継ぎ早に発出した。こうした状況下では仮に特別許可をもらったとしても、日本から目的地のアンデスの国に入っても、空港周辺の指定病院(ホテル)で2週間、調査で2週間、日本に帰国してホテルもしくは自宅で10~15日の待機というスケジュールとなり、2週間の調査のために約30日の無意味な時間を過ごさなければならなくなる。しかも、エクアドルからペルー、さらにチリというルートを例にとるとすれば、国境を超えるごとに、計30日の待機を余儀なくされることになる。したがって、2020年度は時間と予算を無駄にしないよう、予定していた調査をいったん凍結し、代わって21年度に実施する予定だった文書の解析等を行い、残された調査は、新型コロナウイルスのパンデミックの状況を見ながら2021年度(最悪、2022年度)に調査を遂行することにする。
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