2021 Fiscal Year Research-status Report
古代ローマにおける取引実務の実像と担保法理論への影響に関する研究
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20K01237
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
宮坂 渉 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (70434230)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ローマ法 / プラウトゥス / スルピキウス家文書 / 北アフリカ / 皇帝所領 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、前年度に引き続き、古代ローマ社会で展開された取引実務の実像と取引当事者の意識との解明を目指した。しかしながら、コロナ禍のために、カトー著『農業論』にかんする海外での資料収集は依然として実現できなかった。そこで、前2世紀の喜劇作家プラウトゥスの作品とその先行研究とを渉猟した。①その結果、『捕虜Captivi』という作品からは、都市ローマが大国カルタゴに勝利して西地中海の覇権を掌握した紀元前2世紀においてもなお、債権者が債務額を上回る担保物を売却することで暴利を貪ることの危険性が広く認識されていたことが明らかとなった。また、担保という法制度が人々に利用されるにはそのニーズが存在したことが予想されるところ、スルピキウス家文書のさらなる分析を通じて、スルピキウス家が多様な担保制度を利用したこと、なかでも集合流動動産担保がスルピキウス家の資金需要に応じて利用されたことが明らかとなり、それがスルピキウス家の経営基盤を強化するのに貢献したのではないか、との仮説を導くことができた。以上の研究成果は2022年内に刊行予定の学術叢書に掲載される予定である。②加えて、分担研究者を務める別課題の研究から、後2世紀の北アフリカの皇帝所領において、所領経営を請け負った者から農地を賃借した小作人が、農地上に設定された地上権ないし農地からの収穫物に、債権者のための担保権を設定していた例があることが判明した。このことは、後2世紀以降の法学者による担保法理論ならびに後4世紀前半のコンスタンティヌス帝の勅法においてなお債権者の実力行使や暴利行為の規制の必要性が指摘されていたことと何らかの関連を有すると考えられる。以上の成果は2022年3月にフェニキア・カルタゴ研究会第7回公開報告会において「後2世紀属州アフリカの皇帝所領における農業経営と小作人を取り巻く権利関係」という論題で公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
キケローの諸著作ならびにスルピキウス家文書において見られる取引実務と取引当事者の意識、古典期ローマの担保法理論の分析は順調に進展している。2022年3月にはフェニキア・カルタゴ研究会第7回公開報告会において「後2世紀属州アフリカの皇帝所領における農業経営と小作人を取り巻く権利関係」という論題で研究成果の一部を公表した。これに対して、国内ではほとんど研究されていないカトー著『農業論』にかんして予定していた、海外での資料収集の実行がコロナ禍のために前年度に引き続き大きく妨げられた。その結果、カトー著『農業論』の翻訳作業、ティトゥス・リウィウス著『ローマ建国以来の歴史』等の文学作品との比較も十分に進めることができなかった。また、2022年1月に延期されてチリ・サンティアゴで開催される予定であった、国際古代法学会( la Societe Internationale Fernand De Visscher pour l'Histoire des Droits de l'Antiquite (SIHDA))は結局中止となったため、海外での研究成果の報告が実行できなかった。また、同学会でリクルートした研究者も招いての研究会も開催できず、国内の研究者とのオンラインでの研究会を行うに留まった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度7月から所属大学で1年間のサバティカル休暇を取得することとなったため、海外での資料収集と研究報告、海外の研究者との研究会の開催を可能な限り推進する。また、計画の遅れを取り戻すべく、翻訳作業ならびに上記の研究成果と文学作品との比較を進めるほか、引き続き、キケローの諸著作ならびにスルピキウス家文書の分析を進める。さらに、引き続き古典期ローマの担保法理論を、債権者の実力行使や暴利行為の規制という側面から確認するために、学説彙纂に採録された古典期法学者の法理論を分析し、後2世紀以降の法学者が著した法文を基に、法学者相互の影響関係と法文の背景にある政治的・社会的状況とを解明する。研究成果は、日本ローマ法研究会で報告し、『法制史研究』あるいは『ローマ法雑誌』へ投稿する。
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Causes of Carryover |
2021年度はコロナ禍の継続により海外に渡航しての学会発表(学会自体中止)と資料収集とが実現できなかったため、支出の必要が生じなかった。2022年度は7月から所属大学でサバティカル休暇を取得し、イタリア・フィレンツェで1年間の在外研究を行うため、海外での学会発表と資料収集の費用に加えて、研究成果報告書の印刷にも支出が必要である。
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