2020 Fiscal Year Research-status Report
The Dutch Republic as a Laboratory for New Jurisprudence and Politics
Project/Area Number |
20K01238
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福岡 安都子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80323624)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国家論 / 法学的方法 / 政教関係論 / オランダ / ドイツ / 立憲主義 / 公法史 |
Outline of Annual Research Achievements |
百年に一度あるかないかの大動乱の年であった。プロジェクト初年度にも関わらず,海外渡航の全面的制限のため,当初計画していた,現地図書館訪問による基礎的史資料の収集を実現することができなかった。国際学会参加どころか,研究室への出勤も自由にならない状況の下で,研究体制の再確立が必要となった。国内図書館へのアクセスは,後半期,徐々に改善していったところであるが,英米独仏と比較して国内的な研究蓄積が少ないオランダ研究プロパーの部分については,入手できる史資料の範囲は非常に限られたままである。 今年度の研究活動は,上記のような与件の下で,何が可能であるかを手探りするものとなった。自分がこれまで従事してきた17世紀政教関係研究を出発点に,全体状況の中でそれが位置付けられるべき,より広いパースペクティブを獲得するという本プロジェクトの目的に沿い,次のような方向の作業に取り組んだ。 A) 第一は,自らの政教関係研究の出発点となる拙著,『国家・教会・自由――スピノザとホッブズの旧約テクスト解釈を巡る対抗』の展望に,その“前史”に当たる,17世紀初頭の論争史を補うことである。 B) 第二は,手元にあるオランダ史基本文献をベースに,上記拙著が扱う時代の(言わば)“後史”にあたる部分を,啓蒙主義の展開を軸に辿ることである。17世紀オランダの思想的遺産が,国力の衰退が始まる同世紀末から18世紀にかけ,どのように展開し,フランス革命前後の立憲主義へと繋がっていくかを調査した。 C) 第三は,本プロジェクトの関心対象である“法学的方法による国家論”としての公法の発展史について,通史的展望を獲得することである。特に,「公法史」という学問分野において一つのモデルとされるMichael Stolleisの業績を手がかりに,その叙述対象の設定と方法論につき,日本における受容史の観点も含めて検討することに取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要に記したとおり,今年度は本プロジェクトの初年度として,今後の活動の基礎となるべき新規の史資料を,現地図書館で調査・収集することを予定していたところ,これを実行できなかったことは大きな打撃であった。同時に,コロナが変えた研究条件の下で,かろうじて可能なこととして実行した上記A~Cの活動は,それ自体として非常に有益な結果をもたらしたと言える。 A) スピノザ世代の論争(17世紀中葉)を論じた『国家・教会・自由』に,その“前史”,即ち,グロティウス世代の問題状況(17世紀初頭)に関する叙述を補うことで,オランダの政教関係論争について,より広い史的展望を提示することができた。 B)こうした“前史”に対する(言わば)“後史”,ないし,日本において今なお研究の薄い「ポスト・黄金時代」のオランダに研究の範囲を広げたのが,Bの活動である。即ち,17世紀末から18世紀の同国で,オランイェ家との姻戚関係を介した,外国王侯による政治介入(よく知られたイギリス王家のみならず,プロイセン王家や,ブラウンシュヴァイク・ヴォルフェンビュッテルのヴェルフェン家等による)が強まる中,ヴォルフやロックの思想が輸入され,また,近代的憲法典の制定へとエネルギーが向かう過程について,限られた文献の範囲においてではあるものの,一応の概観を得ることができた。 C)そして,本プロジェクトは「法学的方法」による国家論に関心を寄せるところ,比較の対象として,そうした法学的国家論の一つの在り方として最もよく知られ,また,現在でも我が国の実定法学の土台となっている,ドイツ国法学・行政法学上のjuristische Methodeについて,その盛衰をフォローすることができた。 本評価は,本格的な新規史資料調査ができなかったマイナスと,入手可能資料を中心に行った上記のようなプラスを,総合したものとなる。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では,オランダほかの欧州諸国における新型コロナウイルス感染症の流行が,日本よりも更に深刻な状況のため,安全な海外渡航が可能になるまで,さしあたりは,上に「研究実績の概要」及び「進捗状況」に記したBやCの方向を軸に,国内で入手可能な文献をベースに出来ることを模索していく。与えられた状況は厳しいが,禍を転じて福となし,本研究プロジェクトの目的を,より高度な形で実現できるように努めたいと考える。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で研究活動が自由に遂行できず,特に,海外出張が不可能であったため,元々の旅費予算で在宅勤務対応の研究環境整備を行った剰余を,活動制限の緩和が期待される次年度以降に繰り越したため。
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Research Products
(1 results)