2021 Fiscal Year Research-status Report
1919年前後のラートブルフ法概念の変遷:『法哲学』講義原稿の読解を踏まえて
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20K01240
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
足立 英彦 金沢大学, 法学系, 教授 (30397202)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラートブルフ / 法概念 / ルール / 原理 / 正義 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドイツの法哲学者であったグスタフ・ラートブルフ(1878-1949年)の理論は、第一次大戦後に大きな修正が加えられ、第二次大戦後にも一定の修正が加えられた。本研究は、彼の法概念の変遷と、戦後の彼の主張(「ラートブルフ定式」)との関係に関する新たな解釈を提示することを目的としている。ラートブルフは,自身の考える法概念を徐々に発展させ,1932年の『法哲学』で完成させた。その経緯を探るため、本研究では、まだ活字化されていない彼の手書きの講義原稿に着目している。この講義原稿は、1913年から1931年までの間に,ラートブルフがハイデルベルク大学などで法哲学の講義を行った際、講義準備のために作成したものである。本研究ではその原稿を読み進めることによって,彼の法哲学・法概念に対する理解を深めるとともに,彼の法概念の変遷について新しい知見を得ることを目指している。2021年度には、ドイツに短期間滞在し、ドイツ人の研究者または学生の助力を得て上記原稿の読解を進める予定であったが、コロナ禍のため渡航できず、自分で読解を進めることに専念した。あわせて、ラートブルフが一方で法概念を価値関係的概念とみなし、目的志向的なものとみなしていたところ、1919年以降に法概念に形式的正義としての平等の理念を追加し、法そのものに価値を見出す方向へ修正することによって、彼の法概念に論理的に相容れない二種類の要素が併存することになってしまったのでないか、という疑念を強くいだくようになった。これは、アレクシーの原理とルールの区別にも通ずると考えられるため、この区別に関する研究を進め、その一環として、ルールと原理の論理的区別に関する重要な論稿である王鵬翔「理想的当為としての原理」の翻訳を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究期間2年目の2021年度には、ドイツに短期間滞在し、ドイツ人の研究者または学生の助力を得て上記原稿の読解を進める予定であったが、コロナ禍のため渡航できず、自分で読解を進めることに専念した。そのため、当初予定よりも読解は進んでいないものの、他方、ラートブルフの法概念に目的志向的な要素と、法そのものに価値を与える平等原理という、論理的に相容れない二種類の要素が併存しているのではないか、それはアレクシーの原理とルールの区別や、さかのぼれば刑の本質に関する相対主義と絶対主義の対立にも通ずる、法学全体に共通する論点なのではないか、という着想を得るという成果もあった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度も引き続きラートブルフの講義原稿の読解を進める。ある程度まで読解を進めた後に、ドイツに渡航するか、またはオンラインで、ドイツの学者または学生に読解の補助を依頼する予定である。さらに、アレクシー(Robert Alexy)のルールと原理の区別など、ラートブルフの法概念の分析に資する現代の法哲学上の論点に関する文献も読み進め、ラートブルフの法概念分析に役立てる。研究成果については、研究会や論文等での公表に努める。
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Causes of Carryover |
コロナ禍でドイツへの渡航ができず、当初予定していた旅費を支出しなかった。今年度はドイツへ渡航するか、またはオンラインで共同作業を進め、謝金を支出する予定である。
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Research Products
(3 results)