2020 Fiscal Year Research-status Report
Law and Development Analysis of the Causes of a Legal Assistance Paradox and Its Possible Solutions
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20K01246
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松尾 弘 慶應義塾大学, 法務研究科(三田), 教授 (50229431)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 開発法学 / 法整備支援 / 法の支配 / 法整備支援のパラドクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,法整備支援が被支援国側の受入態勢,支援側の支援方法等の条件次第では,法の支配の進展に効果的に寄与せず,場合によっては法の支配を停滞または後退させてしまう法整備支援のパラドクスについて,現状分析と解消方法を検討するものである。今年度はカンボジアに焦点を当てて検討した。 カンボジアでは,1990年代後半から法整備支援が継続される一方で,複数の機関による法の支配指標において,評価の後退が見出された。世界銀行のガバナンス指標(Governance Indicators)の1つである法の支配の指標(-2.5が最低,2.5が最高)によれば,カンボジアの法の支配指標は,法整備支援が始まって間もない2000年時点で-0.38,2015年時点で-0.93,2018年時点で-1.11,2019年で-0.94となっている。また,World Justice Projectによる法の支配指標(0が最低,1が最高)によれば,カンボジアは2015年時点で0.37,2019年時点で0.32,2020年時点で0.33(調査対象全128か国中127位)となっており,法の支配の進展の停滞の傾向が示されている。考えられる要因として,法整備支援の対象機関および対象者の限定性が考えられる。支援対象官庁等が特定の範囲に限定されるほど,また,支援の受け手が被支援国の限られた官僚等に限定されるほど,法整備支援の成果である法令および法解釈に関する専門知識の蓄積が,特定の官庁等における限られた範囲の官僚等の間にとどまり,その任命手続,給与等の諸条件と相俟って,関係者間の利益獲得のための知的資源として利用される傾向を生じる。また,対象機関および対象者の限定性は,法令整備の迅速性に寄与する一方で,法令作成プロセスにおける関係者の能力養成面では成果が限定的なものとなりうる。大学を含め,対象機関と対象者の拡大が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に従い,文献調査が可能な事項については,概ね調査・分析を行い,情報を蓄積した。 もっとも,現地調査を予定していた部分については,コロナウィルスの感染拡大により,現地への渡航ができなかったことから,未実施となっている。この部分については,2021年度に可能であれば,追加調査を実施し,情報を補充したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
法整備支援のパラドクスの存在に関して,ベトナムを取り上げ,法の支配の進展度が漸進,停滞または後退しているという評価の当否およびその理由につき,最高裁判決を再度審議する監督審の現状,判例の認定・公開の動向等にも鑑み,評価指標の構成項目ごとに,ベトナムの政治的・経済的・社会的状況を踏まえて分析する。また,ベトナムに対する法整備支援の特色について,国際機関,外国政府,NGO等の支援機関ごとに,支援対象機関の限定性,プロジェクトの内容,成果,現状等について個別的に分析し,パラドクスの存在または不存在とその理由を考察する。
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