2021 Fiscal Year Research-status Report
江戸幕府中央の裁判機関「評定所」に関する総合的研究ーー「最高裁判所」の誕生?
Project/Area Number |
20K01249
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大平 祐一 立命館大学, 衣笠総合研究機構, プロジェクト研究員 (00102161)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 評定所公事 / 出入筋(出入物) / 吟味筋(吟味物) / 上訴 / 目安裏書 / 混合型裁判 / 出入型裁判 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は江戸幕府の最高裁判所ともいうべき評定所が、江戸の三奉行所と一体性をもって幕府中央の裁判機関を構成し、然るべき役割を果たしていたことを明らかにすることを目的とする。そのためにいくつかの課題を設定した。 令和3年度は、まず上訴の問題に取り組んだ。江戸時代の裁判制度は一審制であり、現代のような上訴という制度はなかった。そのため、一度きりの裁判の判決に到底納得できず、領主・地頭の裁判所の判決や裁判に強い不満を抱く者が少なくなかった。その結果、訴訟当事者が江戸の三奉行所に出訴することがしばしば見られた。その場合、結果的に評定所で裁判が開始されることもあったことを明らかにすることができた。実質的な上訴と言ってもよいであろう。領主・地頭を統合する中央権力としての幕府が、領主・地頭の裁判所の裁判や判決に強い不満を抱く人々に実質的な上訴を認めることにより、領主・地頭の裁判のほころびを補い、幕藩制国家の秩序維持に務めていたことを明らかにすることができた。 令和3年度のもう一つの課題は裏書システムである。それは、訴状に江戸の奉行が裏書をして訴訟を受理するシステムである。全国各地の裁判所の管轄外の訴訟は、江戸の評定所、奉行所が裁判権を持つ。人々は評定所に直接提訴することはできないので、まず江戸の奉行所に出訴する。奉行所は訴状審査ののち、訴状に奉行の裏書を与えて訴訟を受理する。この訴状裏書により訴訟の係属先(評定所か担当奉行所か)が決まる。この訴状裏書の問題は、裁判管轄の問題と複雑に絡み合う問題であるが、次の三つの観点から訴状裏書の問題が考えられていたことが明らかになった。(1)訴訟人(原告)の住所地を基準とする考え方、(2)訴訟人の身分を基準とする考え方、(3)訴訟物を基準とする考え方。従来の研究は(1)を中心に論じていたので、この発見は一つの成果と言えよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度の目標は令和3年度に、当初予定していなかった課題を少し追加して達成することができ、令和3年度の目標は少し難航したが「実質的な上訴」「訴状裏書の考え方」について一定の見通しがついてきたので上のような区分を選んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は最高裁判所としての評定所と三奉行所の裁判における裁判基準について検討することを予定している。具体的には令和4年度には、統一した裁判を行うために三奉行と評定所一座との間で裁判基準を統一する営みが行われていたこと、個別の奉行所の判例と評定所の判例が相互に用いられていたことを明らかにする予定である。そのために『御仕置例類集』『評定所類』『評定所張紙留』等々、評定所の判例集や評定所奉行所の実務を担当する法曹官僚が作成したと思われる職務上の手引書を利用し分析する。 そして、3年間の作業を総合して、江戸幕府評定所と三奉行所を、裁判機関という側面では有機的関連をもった一体性のあるものとして見ることができること、そして、それらが幕府の中央裁判機関ーー実質的な最終判断を行う裁判機関ーーとして、近世日本の法の世界において大きな役割を果たしていたことを示す予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた主な理由は、コロナウィルス問題のため、学会や東京での年2回の定例研究会もすべてZoomでの会合となり、また東京を中心とした史料調査も全く行く事ができなかったため、予定していた出張がほとんどすべて取りやめるになったこと、である。次年度(2022年度)はコロナ問題は完全にはなくならないにしても、沈静化していくと思われるので、その状況を見ながら、出張が可能であれば史料調査、学会・研究会出席のための出張費、そして複写費として使用する予定である。
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