2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K01257
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
酒匂 一郎 九州大学, 法学研究院, 特任研究員 (60215697)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 比例性原則 / アレクシー / 三段階審査 / 法哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ドイツ連邦憲法裁判所が展開し、カナダ、イスラエル、南アフリカなどでも採用されて、司法審査の「グローバルモデル」とも言われるようになっている比例性原則に基づく司法審査について、比較法的手法も用いつつ法哲学的な観点から理論的に検討し、比例性原則による司法審査の普遍的な可能性を探ることを目的とする。 令和2年度は、この分野の理論的研究でもっとも注目を集めているロバート・アレクシーの基本権および比例性分析に関する理論について検討を行った。アレクシーの理論を概観した上で、それをめぐる批判を含めた議論、とくに基本権の概念をめぐる議論、比例性分析および比較衡量をめぐる議論、制度論的問題に関する議論を検討した。 アレクシーの議論(批判に対する応答も含め)は基本的には説得的だと思われるが、ドイツ連邦憲法裁判所の三段階審査(基本権の範囲の確定、基本権に対する規制の目的の正当性の吟味、そして比例性審査)のうち、第三段階の比例性審査(規制の目的と手段の合理的関連、目的実現のための手段の必要性、そして規制による利益と基本権が被る不利益との比較衡量としての狭義の比例性審査)、しかもそのうちの狭義の比例性審査の合理性を理論化することに重点がおかれ、あるいはそこに収斂するかのようにみえる点で、批判的異論を誘発することになっている。 そこで、狭義の比例性審査に関するアレクシーの議論を三段階審査の枠組みに位置づけ直すことによって、比例性審査実務の多様性に開かれた理論構築、しかもたとえばアメリカ合衆国におけるいわゆる審査基準論とも調和しうる理論構築への展望が得られる可能性があるという一応の結論を得た。この成果はすでに論文にまとめており、九州大学法学研究院紀要『法政研究』に掲載予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は司法審査のグローバルモデルとも言われるようになっている比例性原則による司法審査のメリットと問題点を、比較法的手法も用いて、法哲学的な観点から理論的に検討して、比例性原則による司法審査の普遍的な可能性を探るものである。その際、基本権と比例性分析に関する国際的な研究において、議論の中心軸の一つをなしているロバート・アレクシーの議論を検討した。その成果は上記のとおりであり、研究計画は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
比例性原則による司法審査はグローバルモデルともみなされるようになっているが、これに対してアメリカ合衆国の司法審査は例外だとみなされることが多い。比例性原則による司法審査が重要な点で比較衡量を用いるのに対し、アメリカ合衆国の司法審査はカテゴリー的な審査基準による三層審査(厳格審査、中間的審査、合理的基礎審査または合理性審査)によっていると理解されているからである。 しかし、アメリカ合衆国の司法審査においても比較衡量(バランシング)が少なからず用いられており、厳格審査も基本権規制が「政府の切実な利益」の促進のために「明確に特定されている」かどうかを基準とする点で比較衡量を含んでおり、とりわけ厳格な審査までは必要としないとみなされる権利についての中間的審査は比較衡量を重要な要素としている。 この点、カテゴリー的審査基準を支持する論者たちからはその比較衡量に対する批判も提起されているところであるが、他方で、アメリカ合衆国の憲法学者のうちにも、合衆国における比較衡量の問題点はそれが適切に構造化されていないことに由来するもので、比例性原則に基づく司法審査がもつ構造的特性(比較衡量を、規制目的とその手段の合理的関連、手段の必要性、そして規制による利益と不利益の狭義の比例性という下位審査に順序づけて行う)を取り入れる可能性を示唆する者も少なくない。 そこで、次に、比例性原則による司法審査の普遍的可能性を探るという観点から、アメリカ合衆国連邦最高裁判所の裁判例や研究者の文献を検討しつつ、その司法審査理論と比例性原則による司法審査理論との比較を試みることにし、すでに着手している。 その後、これもすでに検討を進めているドイツ連邦憲法裁判所や欧州人権裁判所の裁判例とそれに関連する研究などを踏まえ、とくにアレクシーの比較衡量論の可能性と問題点を法哲学的に検討する予定である。
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Causes of Carryover |
令和2年度はいわゆる新型コロナ感染症の影響で学会や研究会等がオフラインでは開催されなかったため、旅費の支出はなく、すべて物品費として支出した。当該年度残額(次年度使用額)はその端数として生じたものであり、次年度に物品費その他として支出する予定である。
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