2020 Fiscal Year Research-status Report
半直接民主制における国民発案・国民投票制度の比較研究
Project/Area Number |
20K01263
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
武藏 勝宏 同志社大学, 政策学部, 教授 (60217114)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | レファレンダム / ボトムアップ / 迷惑施設 / 正統性付与 / 住民投票 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、主に文献研究に基づいて日本と外国の半直接民主制の制度の仕組みや実態についての比較調査に取り組んだ。諸外国の直接民主制の運用に関しては、台湾、韓国、スイス、アメリカにおける国民投票や住民投票の研究論文や関連する文献の収集を行った。他方で、スイスの民間シンクタンクが提供している世界各国の国政レベルでのレファレンダムの事例725件の形態別のデータベースの構築に取り組んだ。データベースでは、第二次世界大戦後の各国の国民投票において、議会、政府、大統領主導のトップダウン型の割合は1割に満たず、国民からの要求に基づくボトムアップ型が3分の2、憲法条項に基づく自動型が4分の1を占めていることを明らかにした。また、日本におけるレファレンダムである地方自治体における政策の実現や改廃を目的とする課題別の住民投票48件のデータの収集とその類型化にも取り組んでいる。日本の地方自治体では二元代表制にもかかわらず統一政府(オール与党化)の傾向が顕著であり、議会が首長に対するチェック機能をはたしていない面が強い。その結果、2000年代まで、地方自治体において、原発や産廃、基地などの迷惑施設をめぐる首長・議会と反対派住民の対立が住民投票に発展する傾向がみられた。しかし、2010年代以降は、住民の自治体財政運営への認識の高まりを受けて自治体施設の整備が適切かどうかを問うケースが住民投票において増加している。住民投票が行政と住民の対立型から、議論が煮詰まったうえで、住民の意思を聞く正統性付与型に転換していることが指摘できる。こうした知見に基づいて、日本の現行憲法のもとでの政府と議会、国民の間の合意形成のあり方について、ポピュリスト的な政治運営に代わる統治構造の新しい在り方のモデルを提示することを試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず、半直接民主制の理論的な検討・再整理を行うことを目的に、同体制下での政府、政党と有権者との相互作用や議会での合意形成の在り方を理論的に整理し、半直接民主制の下での代表制と直接民主制の効率的かつ実効的な権限配分の在り方についての体系化の検討を行った。そのうえで、外国の半直接民主制の制度の仕組みや実態について外国を訪問しての調査を予定していたが、今年度は、コロナ禍での渡航禁止のため、現地調査は実施できなかった。他方で、主に文献研究に基づく調査を行い、諸外国の直接民主制の運用に関して、台湾、韓国、スイス、ドイツ、アメリカ等の国、州レベルでの国民投票や住民投票の研究文献の収集と分析を行った。さらに、スイスの民間シンクタンクが提供している世界各国の国政レベルでのレファレンダムの事例725件の形態別のデータベースの構築に取り組み、同データベースに基づく、第二次世界大戦後の各国の国民投票の実施状況の分析を行った。また、日本におけるレファレンダムである住民投票について、二元代表制や地方の選挙制度との関係から、首長と議会の関係をモデル化して分析し、住民投票がなぜ実施されたのかについて制度的、政治過程的側面からの考察を行った。そのうえで、地方自治体における政策の実現や改廃を目的とする課題別の住民投票48件のデータの収集とその類型化を行った。特に、1990年代以降の年代別の住民投票の内容や要求者、首長と議会の関係、投票率、投票結果などの分析を行い、2000年代までの迷惑施設を中心とした住民投票が、2010年代以降、公共施設を中心とした自治体の財政運営の是非を問うテーマに重点がシフトしている点を指摘し、さらに、住民投票の実施に至る政治プロセスが、行政と住民の対立型から、住民の意思を聞く正統性付与型に転換していることを明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
第一年度である令和2年度では、半直接民主制の理論的な検討・再整理を実施したうえで、日本を軸とした比較分析の観点から、比較対象国での現地調査を予定していたが、コロナ禍での渡航禁止により、実施できなかった。次年度は、新型コロナ感染症の感染状況に依存するが、渡航が解禁になった諸国について、現地を訪問し、当該国の研究者の協力を得て、現地での専門研究者との意見交換やインタビュー・資料収集等の方法による実態調査を集中して行うことを予定している。さらに、半直接民主制の下での政府、議会と国民の権限配分に関する理論的な枠組みの体系化を構築し、当該体系的な理論モデルのもとでの現地調査を含めた実証分析を令和3年度中に取りまとめ、国内外の学会報告等の中間報告を行う。具体的には、学会報告では、2021年8月のEastern Regional Organization for Public Administration(行政に関するアジア・太平洋地域機関)のタイ・バンコクで開催予定の国際会議(オンラインにて実施)において、Analysis of referendums by local governments in Japan のテーマで、日本の地方自治における住民投票が、二元代表制のもとでの政策決定過程の補完的機能をどれだけ果たしているのか、住民投票という民意の表出が、地方自治体における政策形成過程においてどの程度の合意形成に寄与しているかの観点から報告する予定である。こうした意見交換や討論などで得られたフィードバックを反映させながら、論文の作成と発信、内外の専門研究者との情報交換等を行うこととする。
|
Causes of Carryover |
今年度の当初計画では、ヨーロッパ諸国と東アジアの日本、台湾の比較を通じて、代表制を補完する国民発案や国民投票制度の意義と問題点を解明するため、文献研究と並行して、ヨーロッパ、アジア諸国での実態調査を実施することを予定していた。また、学会報告では、2020年10月にタイで開催予定の国際会議(Eastern Regional Organization for Public Administration)での報告を予定していたが、コロナ禍のため、中止となった。上記の海外での活動が中止に至ったことに加え、国内でも学会開催や国会図書館(東京)等での調査も感染症防止のため実施出来なかった。以上が、次年度使用額が生じた主な理由である。次年度については、海外への渡航制限が解除されることを前提に、改めて、ヨーロッパ、アジア諸国での国民発案・国民投票制度に関する実態調査を現地訪問によって実施するとともに、延期になったタイでの国際会議(EROPA)が改めて2021年8月に開催予定のため、同会議において「Analysis of referendums by local governments in Japan」のテーマで報告予定である。以上、次年度は海外での現地調査の渡航費や国際会議への参加費、研究遂行に必要な外国語文献の購入や執筆論文の英訳翻訳費などに使用することを計画している。
、
|
Research Products
(1 results)