2021 Fiscal Year Research-status Report
家長的権力の濫用と「家」概念の裁判史――親権・戸主権濫用判決の横断的研究を通して
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20K01265
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Research Institution | Shokei University |
Principal Investigator |
宇野 文重 尚絅大学, 現代文化学部, 教授 (60346749)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 親権濫用判決 / 民事判決原本 / 戸主権 / 「家」制度 / 家族法学説史 / 明治民法 / 裁判例研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、国立公文書館が保存する下級裁判所民事判決原本のうち、『人事判決原本』や親権濫用判決、家督相続人廃除請求訴訟等について分析を進めた。まず、民事判決原本のうち原本のタイトルに「人事判決」「人事事件」等を含む人事訴訟に関する簿冊が999冊確認できた。地域としては東北、関東、四国、中国、九州各地の簿冊が含まれる。そのうち、明治期から昭和22年までの簿冊が846冊、昭和23年以降の簿冊が153冊であった。前者には一部昭和23年以降の記録も綴じこまれているものも存在する。後者については、昭和20年代~30年代前半の貴重な下級審判決が含まれている可能性があり、新たな研究素材として注目すべきと考える。 次に個別の判決の分析については、親権濫用判決において親権者である実父母への親権喪失請求訴訟において、子の「愛育」「監護」を放棄し「出奔」「放浪」した実父母に対し、親権喪失の理由として「著しい不行跡」が認定されている事例が複数存在した。実父の親権喪失の背景に禁治産宣告や強制隠居(事実上の廃戸主)などの事実が認定されている事例も確認できた。なお、明治23年以前の判決原本を対象とした国際日本文化研究センターの民事判決原本データベースにも明治24年以降の判決が存在することを確認し、実母の財産管理権を尊重する事例などを確認できた。また福岡地裁福島区裁判所の『明治35年中隠居、廃家、子ノ懲戒、家督相続人及ヒ親族会二関スル件』と題する簿冊も収集したが、編綴された判決のほとんどが親族会召集に関する事例であった。 第二に、広く「親権」に関する研究を深めるため、比較家族史学会にて「<産みの親>と<育ての親>の比較家族史①」と題するシンポジウムを企画運営し、2021年10月に学会を開催した。2022年6月にも継続して同テーマを拡大して開催するにあたり、プレシンポジウムを3回開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
裁判資料の収集を進めているが、コロナウイルス感染拡大の影響もあり現地での閲覧がかなわず、データを取り寄せるためタイムラグ等生じていること、分析対象となる膨大であることや簿冊名によって選定した資料の中から本課題に直接関連する事例を抽出する作業に時間を要し、資料を整理しながら分析・解析を進めざるを得ない状況であったためである。一方、学会におけるシンポジウム開催については、プレシンポジウムの実施を含めて予定通り進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、裁判例分析については継続して研究を遂行し、親権濫用判決の収集・分析を進めるとともに、親権をめぐる裁判の背景にある、戸主権や婚姻関係、「家」制度的要素についても多角的な検討に入る予定である。 第二に、人事訴訟に関する簿冊について、膨大な簿冊の中から本研究課題にとって必要不可欠な史料を選別し、収集・分析を進める予定である。 第三に、比較家族史学会にて開催する予定の「〈産みの親>と<育ての親>の比較家族史②」と題するシンポジウムの主宰者・司会者として討論も含めて有意義な内容となるように準備を進め、成果物として刊行予定の書籍の編者としての業務を遂行する予定である。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、資料収集、学会及び学会打ち合わせ、出版打ち合わせ等について出張旅費として使用する予定であった予算について、コロナウイルス感染拡大の影響により現地への出張が困難となったり、学会等がオンライン実施に変更となったりしたため、旅費を中心に繰越金が発生した。 次年度については、コロナウイルス感染拡大の状況にもよるが、学会や研究会等への参加によって旅費等が必要となる場合は、そのために支出する予定である。また、今年度の研究の進捗によりあらたにデータ収集が必要となった資料があるため、その複写費や関連文献等の購入費として支出する予定である。
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