2022 Fiscal Year Research-status Report
家長的権力の濫用と「家」概念の裁判史――親権・戸主権濫用判決の横断的研究を通して
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20K01265
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Research Institution | Shokei University |
Principal Investigator |
宇野 文重 尚絅大学, 現代文化学部, 教授 (60346749)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 親権濫用判決 / 明治民法 / 「家」制度 / 身分法学 / 家族法学説史 / 戸主権 / 裁判例研究 / 親子法 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに引き続き、明治民法施行以後の親権濫用判決の蒐集・分析を進めた。あわせて、青山道夫、末川博、中川善之助、鈴木ハツヨの親権論および裁判分析、権利濫用に関する見解などを整理した。 青山、末川においては戸主権濫用論ないし戸主権濫用判決と親権の濫用に対する見解の比較が可能であり、中川善之助については親族会と母の親権について、あるいは親権濫用と内縁(事実婚)との関連性、さらには「事実の先行性」や「統体法理論」の中での位置づけなど多くの論点について検討が必要であることが分かった。 また、明治民法の親子法や扶養法規定について、「家」制度的要素、封建道徳的「孝」規範の要素、さらに西洋近代家族法原理に基づく要素をそれぞれ腑分けして、その構造的特徴について検討を進めた。 このほか、幅広く「親」と「子」の学際的な共同研究として、2022年度比較家族史学会春季大会にてシンポジウム「<産みの親>と<育ての親>の比較家族史」を企画、開催し、民事法学、法制史学、歴史学、社会学、社会福祉学、文化人類学等の研究者による全11本の報告と2本のコメンテータによる討論をアレンジし、シンポジウムでは第1セッション討論の司会および最終日の全体討論の司会を務めた。このシンポジウムについては、法律文化社より書籍として刊行する予定であり、終章を執筆する予定である。 このほかの成果物として、明治家族法史、近代民事法史、「家」制度等について執筆した論稿が、2023年度中に書籍(いずれも共著、3冊の予定)として刊行予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
明治前期ないし明治民法施行以後から戦前までの膨大な民事判決を蒐集し、分類、分析するためにより多くの時間を必要としている。とくに国立公文書館つくば分館に保存されている民事判決原本については、簿冊名、事件名からだけでは内容が判明しないため、取り寄せた上で確認をする必要がある。また、親権、家長権(戸主権)研究を遂行する上で、明治民法全体の構造的分析が不可欠であり、比較的先行研究の少ない親族会研究が重要であることがわかるなど、新たな論点の広がりもあり、またさらに戦後の改正まで視野にいれた学説研究、文献研究を進めていく上で、より多くの時間が必要となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、民事判決原本の蒐集、整理・分類、分析を進める。従来より寡婦である母の親権と親族会との対立構図が指摘されている親権濫用判決について、事例研究を蓄積していきたい。また戸主権ないし戸主権濫用との相違点についての考察を深めたい。 学説史も整理しながら、親権、戸主権のみならず、同時代の婚姻法や親族会をめぐる論点との相互関係について研究を進めたい。 また、成果物としては、2022年度の学会シンポジウムの実績を書籍として刊行することをはじめ、事例研究の公表を積み重ねていく予定である。
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Causes of Carryover |
学会参加のための旅費について、新型コロナウイルスの影響により学会開催がいずれもオンラインのみまたはハイブリッド方式となったため、旅費交通費の執行ができず、次年度に繰越となった。次年度については、対面開催の学会も増える見込みであり、また合わせて史料調査、研究打ち合わせ等も対面で実施できる機会も増えると考えられるため、そのための旅費交通費として適切に使用したい。
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