2023 Fiscal Year Research-status Report
家長的権力の濫用と「家」概念の裁判史――親権・戸主権濫用判決の横断的研究を通して
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20K01265
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Research Institution | Shokei University |
Principal Investigator |
宇野 文重 尚絅大学, 現代文化学部, 教授 (60346749)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 親権濫用判決 / 明治民法 / 「家」制度 / 身分法学 / 家族法学説史 / 戸主権 / 裁判例研究 / 親子法 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに引き続き、明治民法施行以後の親権濫用判決を中心に収集・分析を進めた。国立公文書館で所蔵されている親権濫用判決で閲覧可能な原本18件について分析に取り組んだ。判決の時期としては明治34~35年、明治40,42年、大正3,4,8年、昭和7年、昭和24~27年とばらつきがあり、判決裁判所も多様であったが、未公刊の下級裁判事例を収集することができた。分析の結果として、子の祖父などから実父に対する親権喪失宣告請求訴訟を4件発見でき、いずれも実父の親権喪失が宣告されていた。そのうち1件は婿養子であったが、残る3件は非婿養子であった(すなわち、原告=子の祖父、被告=子の実父かつ原告の息子である事例など)。親権喪失を宣告された実父の中には、放蕩等により法定推定家督相続人を廃除された者もあった。母の親権については、「不行跡」をめぐる判断に加え、財産管理と親族会の関係に言及する事例も見いだせた。また、昭和24~27年の判決については、終戦前後の社会情勢が見いだせ、離婚と併せた親権喪失宣告請求が複数件見いだせた。以上の事例から親権をめぐる紛争の背景を分析するにあたって、本課題がテーマとしているように、夫婦(婚姻離婚)や戸主権ないし相続、親族会など、身分法(≒家族法)領域における横断的な視点が必要であることが明らかになった。この分析結果については、個々の事例についてより精緻な分析を加えた上で、次年度に公表したい。 また、明治民法における「家」制度について、戸籍制度との関係を検討するにあたり、戦後の民主化における改正まで視野に入れた分析に取り組んだ。この成果については、2023年12月に共著を公刊し、次年度中にもう1本の共著書を公刊予定である。また、関連する論文に対する書評1本を学会誌(法制史研究、2024年度刊行予定)に掲載予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
明治前期ないし明治民法施行期以後、さらには戦後直後における膨大な民事判決を収集し、分類・分析するために時間を要している。とくに国立公文書館つくば分館に所蔵されている明治判決原本については、簿冊名・事件名からだけでは内容が判明しないということ、閲覧審査にも時間を要することから、取り寄せて確認をするまでにも相応の時間を要している。また、戦後の民主化における改正時期も視野にいれた考察にも取り組んでいることから、この時期の資料の収集、分析にも時間が必要となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、民事判決原本の分析を進め、父に対する親権喪失宣告の事例や母と親族会との関係、家督相続をめぐる背景、婚姻関係と親権との関係、親権と戸主権との相克など、身分法の各領域を横断的に分析する視点をもって、事例研究の成果を公表していきたい。
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Causes of Carryover |
主な理由は以下の3点である。 第一に、出席を予定していた学会について、直前にコロナウィルスに感染したために出席を取りやめざるを得なくなり、旅費の使用額が大幅に少なくなった(一部キャンセル料のみの支出となった)ためである。 第二に、学会・研究会打ち合わせについて、オンラインでの開催となり出張旅費の支出が不要になったためである。 第三に、次年度において遠方での学会開催が3回ほど計画されており、テーマについても本課題と関連性が高い企画もあり、また学会運営委員として参加の必要性が高いため、そのための旅費交通費として適切に使用するためである。
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