2021 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ保守主義憲法論の研究-比較憲法の方法の再検討のために
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20K01273
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
高井 裕之 大阪大学, 法学研究科, 教授 (80216605)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 憲法 / アメリカ / 保守主義 / 原意主義 / 文理解釈 / 司法消極主義 / 裁判官人事 / 連邦制 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に続きコロナ禍のため、令和3年度においても本研究の助成金による研究成果は公表することができなかった。しかしながら、本研究に関する私(本研究代表者)の研究としては、実施計画に記載した3本柱について、研究成果公表に向けて一定の進展があった。まず、第1の柱、すなわち、アメリカ保守派の司法制度に関する運動、とりわけ裁判官人事への働きかけに関しては、2020年秋に新たにバレット判事が連邦最高裁に任命され、また2022年初頭には民主党のバイデン大統領によって新たな連邦最高裁判事としてジャクソン判事が指名されるという出来事があり、これらについては同時進行的に資料収集したので、今後その分析に注力したい。 第2の柱、すなわちトーマス連邦最高裁判事の示す法理の分析に関しても、判例や学説を収集し、その分析に着手したところである。その際、同判事の理論と同僚裁判官の考えとの関係にも注目している。第3の柱、すなわち連邦最高裁における保守派裁判官の見解を丹念に分析する研究として修正第1条をめぐる判例を収集・分析する作業を行い、論文公表のための下準備をある程度進めることができた。また、同じく他の憲法規定などに関する保守派裁判官の動向についてもある程度理解を進めることができた。 これらの研究によって、令和4年度において本科研費補助金研究の成果をまとめ公表するための基盤を固めたといえる。もっとも、令和3年度においても、アメリカ合衆国への出張による現地調査はもとより、これに代えてオンラインによるアメリカの研究者等と面談することも、結局実施することができず、これも引き続きの課題である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和3年度においても本研究の進捗状況は順調ではなかった。長引く新型コロナウイルス感染症蔓延のため、本研究における重要な課題として予定していたアメリカにおける実地調査ができなくなったことが大きいが、これに加えて国内における調査にも事実上制約がかかったためである。のみならず、勤務校における教育活動についてもなおオンライン授業の活用など多大の時間を要する業務が発生したため十分な研究時間を取れなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、研究用の図書もある程度そろい始め、またコロナ禍における研究・教育体制にも慣れてきたので、本研究課題に本格的に取り組み、遅れを取り戻し、本研究の完成を目指す。まず、研究の3本柱の第2(保守派裁判官の見解分析)は上記のとおり一定の下地を確立したので、引き続き分析対象を広げて継続していく。その際、一般的には最も保守的な立場を取ることの多いトーマス判事のラディカルな原意主義・文理解釈等に特に着目しつつ、トランプ大統領によって近時任命された3裁判官の見解にも留意しながら、連邦最高裁の全体動向を把握することも試みる。下記のとおり修正第1条(言論の自由、信教の自由、政教分離)に関する判例が重要であるが、必要に応じて、他の問題、例えば武器保有携帯権に関わる修正第2条、逮捕・捜索・押収の制約に関わる修正第4条に関する判例なども分析対象とする。 次に、研究の第1の柱である裁判官任命の実態の調査と分析については、上記のとおり、バレット判事とジャクソン判事の指名および上院による承認という大きな出来事があったので、これをめぐる政治的な動きを分析するとともに、これを手がかりにして、さまざまな政治勢力による運動や戦略の実態に迫りたい。 そして、第3の柱である修正第1条に関する判例の総合的分析に傾注する。言論の自由や信教の自由を根拠に保守派裁判官がリベラル派裁判官の反対を押し切ってリベラル派の支持する政策・法令に違憲判断を下す事案は、最近もしばしば見られる(例えば、感染症対策として宗教施設での集会を制限する政策に対する違憲判断など)。 なお、令和3年度には実施できなかったアメリカ出張による現地調査、またはこれに代わるものとしてのアメリカの研究者等とのオンラインによる面談などの方法も、追求していきたい。
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Causes of Carryover |
令和3年度における本研究は、前年度と同様、新型コロナウイルス感染症蔓延により、本研究における大きな支出項目であるアメリカにおける実地調査ができなくなったため、多額の未執行が生じた。また、教育活動において同じくオンライン授業の活用など多大の時間を要する業務が発生したため、十分に研究計画を具体化する時間を取れず、図書の発注など物品費についても前年度の残額分まで含めた額を十分に執行することができなかったという事情もある。令和4年度には、研究の遅れを取り戻すべく、アメリカ出張など旅費執行の機会を探るとともに、早期に図書を発注するなど物品費の執行にも努めたい。
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