2021 Fiscal Year Research-status Report
医療における親密な関係性の意義に関する憲法学的研究
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20K01279
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
中山 茂樹 京都産業大学, 法学部, 教授 (00320250)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 出生前検査 / 個人の尊重 |
Outline of Annual Research Achievements |
医療における意思決定のひとつの場面として、出生前検査に関する憲法上の問題について、要旨次のとおり考察した。 ・出生前検査をめぐる問題は社会の構造的差別と関わるが、社会構成員は構造からまぬかれ難く、個人の自律はその構造を再生産しうる。医療技術の実装過程を社会構造の中で捉え、ふさわしい社会の制度を整えることが法学の課題となる。 ・出生前検査は妊娠した女性が自己の身体情報を知る行為だと捉えられ、その規制は自己情報を知る自由の制限になる。私的領域の情報の自由についての憲法学的検討は必ずしも十分ではなく、検討する必要がある ・憲法上の「個人の尊重」原則は、社会に多様な個人が存在し、その個人が等しく尊重されることを定めるところ、そのような基本原則を有する憲法が、生まれてから有する胎児の特性を理由として「他者」とするのかどうかを判断することを権利として認めているとは考えにくい。他方で、選択的中絶の規制目的には、(1)胎児保護論、(2)選別害悪論、(3)差別的メッセージ論などがあるが、それぞれ正当性などに課題がある。特に(3)からは検査それ自体も規制対象となる可能性があるが、公私区分を不明瞭にする可能性もあり、妥当性を慎重に検討すべきである。 ・立法権は胎児保護や差別防止施策も憲法に反しない限りで行いうるが、最終的には女性の妊娠を継続するか中絶するかに関する意思決定が尊重される政策が望ましい。その上で、社会の差別構造の中で、女性に健康な子どもを産ませ、障害のある子どもを産ませまいとする社会的な権力からの自由もまた図っていくべきである。 ・出生前検査をめぐって「自己決定の権利」が語られることがあるが、その法的内容を検討すべきである。情報提供論は、少なくとも「正しい情報」の中身が問われるし、社会における相当な体制づくりが必要になる。社会における医療の果たすべき役割に関する議論が避けられない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症対策のために失った教育等の業務と研究活動とのバランスを回復し、研究活動を順調に遂行できるよう立て直すことはできた。それによってかなり進捗しているが、昨年度に生じた遅れを完全に取り戻すまでにはいたっていない。
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Strategy for Future Research Activity |
ひきつづき教育等の業務と研究活動とのバランスをはかり、本研究課題を順調に遂行できるよう立て直したい。状況が許せば、学会・研究会等に積極的に参加し、情報交換をおこなっていきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症対策のため学会・研究会等の現地開催がなくなり、審議会の傍聴等のための出張も避けたため、旅費を使用することがなかった。次年度に旅費使用の機会があるかどうかは感染拡大等の社会状況に依存するためわからないが、旅費使用の可能性にかかる状況を観測しつつ、研究に必要な文献(書籍等)の購入等を含め、計画的に使用していきたい。
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