2020 Fiscal Year Research-status Report
正統性及び公益適合性を内在した地域自治的公共秩序形成手法の制度設計に関する研究
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20K01286
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岸本 太樹 北海道大学, 法学研究科, 教授 (90326455)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 狭域都市空間 / 当事者自治 地域自治 / 立法のアウトソーシング / エリアマネジメント / 私的規範の公法秩序への接続 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間初年度にあたる2020年度は、本研究が考察の対象とする「地域自治的公共秩序形成」、すなわち「街区や小学校区など、基礎的自治体たる市町村よりも狭い一定範囲の地域又は都市空間(以下、「狭域」という。)につき、そこに妥当する地域固有のルール(=地域公共秩序)」が、「当該区域に土地所有権等を持ち又はそこに居住し若しくはそこで事業等を営む利害関係者又はそれら利害関係者が構成員として参加する私的な団体(まちづくり協議会など)によって主体的・自律的・自治的に形成される諸々の現象」に焦点を当て、その是非又は法的問題性の有無に関する評価をひとまずおいたうえで、既存の制度の内容と構造並びに運用の実態を可能な限り網羅的かつ精確に把握することに主眼を置いた。 「地域固有のルール」には様々なものがあり、また形成された地域固有ルールが現実に果たし(又は果たしうる)機能ないし効果も多種多様であるが、そこに共通するのは、狭域とはいえ、一定の地域「全体」に係わる、その意味で「公共性をもった事項」が、それに直接の利害関係を持つ私的法主体の「多数の支持」によって自治的に形成され、それが市町村長の「認定」等を経てフォーマル化されると、当該「私的法主体が集団的・自治的に形成したルールが、それに違反する者に対する行政指導又は時により強力な行政規制を行う根拠となっている」点である。その意味で、近年都市法領域で関心を集めている「地域自治的公共秩序形成」現象は、実質的には「私的法主体による規範形成=私人による立法」としての側面を持ち、謂わば「立法のアウトソーシング」現象の一類型に位置づけることが可能である。2020年度は、こうした観点から、「都市法以外の分野」でも散見される私的法主体による様々なルール形成現象にも目を向け、それらに共通する構造を分析しつつ、そこに共通して潜む法的問題点を浮き彫りにする作業を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画書にも記載の通り、研究初年度は、「公共性を持った地域秩序が当事者自治的に形成され、それが行政法秩序に何らかの意味で取り込まれ、接続される諸々の現象」につき、その制度実態と実際の運用実態を可能な限り広く渉猟し、構造分析を行うことを通じて、そこに内在する法的問題性(正統化なき強制の危険性)を精確に認識することを目標としたが、文献の収集とその読込み作業によって、基本的な枠組みと問題点の把握はできており、行政法学が取り組むべき論点、検討又は解明されるべき課題は明らかになったと考えている。また、本年度実施した研究の内容は、「当事者自治的公法秩序形成と行政上の契約」と題して国内で開催された研究会において報告(2020年11月28日ZOOMオンライン形式での研究会)しており、研究成果についての情報発信を行うとともに、関連する研究を行っている国内の研究者との間での質疑応答を通じ、今後取り組むべき課題と研究の方向性についても、意思疎通が図っている。 なお、申請当初は、本年度並びに2021年度にかけて、比較検討素材として、海外(特にドイツ、アメリカ、イギリスそしてカナダ)の法制度の内容と、その運用実態を調査し、以て我が国の法制度の特殊性、並びに、我が国の行政法学が本研究課題に取り組むに当たってより詳細に検討すべき論点を浮き彫りにすることも予定していたが、この点は、コロナ禍で海外実態調査を行うことができなかったため、本年度は十分に為し得なかった。しかしながら、こうした研究活動上の制約を受けながらも、研究開始初年度としては、その目標をほぼ達成できている。以上のことから、現在までの進捗状況は「おおむね順調」に進捗していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度においては、前年度(2020年度)に解明した「地域自治的公共秩序形成現象に内在し、処理又は解決すべき法的論点」につき、類似の法制度を持つ諸外国(特に日本と近い思考様式と類似の法体系を持つドイツ並びにアメリカ、イギリス、カナダ等の諸国)に目を向け、各国の法制度の内容とその運用実態並びにそれをめぐる行政法学上の学術論議の動向を調査するとともに、「私的法主体によって自治的に形成される秩序の内容」に応じて、これを適宜類型化しつつ、「私的な利害関係者集団が自治的・自律的に形成した秩序が、地域固有のルールとしてフォーマルな行政法秩序に接続されることが許容されるための法的枠組み条件」の類型化、体系化に向けた作業を行う予定である。公共性を持った事項に関するルールが、これと密接な利害関係を持つ私的集団によって自治・自律的に形成される現象(私人による立法=立法のアウトソーシング)は、何も都市法領域に固有の現象ではなく、形成される私的規範の内容及び付随する効果に若干の差異はあれ、原子力法を含む環境法領域や国際会計法領域においても多数見受けられる。本年度は、他の法領域における学術論議の内容と議論動向にも目を向けながら、私的法主体による様々な規範形成現象につき、そこに妥当すべき法理論又は統制原理の「共通項」を洗い出しつつ、他方では、形成される規範の内容とそこに付随する効果の違いを念頭に「類型化」を図り、次年度(2022年度)以降、全体の体系化に結びつけたいと考えている。 なお、申請当初の予定では、2021年度において海外実態調査を行い、併せてドイツ・キール大学(F・Becker教授)との共同研究と共同シンポジウムの開催を予定していたが、渡航制限によりこれを実現できない場合は、それを次年度以降に実施することとし、本年度は主として文献の読み込みによる比較法研究に特化した研究を行う予定である。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況の欄にも記載の通り、申請当初は、本年度、地域自治的公法秩序の形成現象に関して、国内の自治体の取組み状況を調査し、併せて類似の法制度を持つ諸外国(特に我が国と類似の法体系を持つドイツ又は地域自治的公共秩序形成手法による都市空間管理を我が国以上に活発に行っているアメリカ、イギリスもしくはカナダ)の法制度及びその運用実態を調査することを予定し、そのために必要な旅費と謝礼金を計上していたが、コロナ禍により、2020年度において、海外渡航、海外からの研究者の招聘を行うことができなかった。また対面による研究会の開催又は研究会への出席も、感染拡大防止の観点から自粛し、ZOOMを用いたオンライン形式で実施せざるを得なかったため、当初計上していた国内旅費を予定通り執行することができなかった。このため、次年度使用額が生じたものである。 なお、今年度(2021年度)の研究計画にも記載した通り、当初一部実施する予定であった国内外の制度運用の実態調査並びに国外の大学研究者との共同シンポジウムの開催(これに伴う渡航または招聘)は、コロナ感染状況並びに渡航制限の解除状況を見ながら、今年度(2021年度)又は場合によると来年度(2022年度)に実施する予定であるが、この点については、ドイツ・キール大学のF・Becker教授とも、メールにて、適宜意思疎通を行っているところである。
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Research Products
(3 results)