2021 Fiscal Year Research-status Report
正統性及び公益適合性を内在した地域自治的公共秩序形成手法の制度設計に関する研究
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20K01286
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岸本 太樹 北海道大学, 法学研究科, 教授 (90326455)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 当事者自治的公法秩序形成 / 擬似公共性 コンセンサスの虚構 / 多数の専制 / 正当性 / 正統性 / 公益適合性審査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近年、欧米諸外国のみならず我が国においても特に都市法の領域において注目され、積極的な運用が志向されている「当事者自治的地域エリアマネジメント活動(すなわち、街区等の都市の狭域空間において、当該街区内の地権者等等が、街区の生活環境や事業環境を向上させるために、地域地権者等のコンセンサスを取り付けながら、当該地域固有の秩序を能動的・主体的形成し、いわば、当事者自治的又は地域自治的に地域秩序の形成とその運用をマネジメントする仕組み又は活動)」に焦点を当て、こうした「共助・共生型の街づくり」が「正当かつ有効」に機能するための法的枠組み条件について、主に公法学(とりわけ行政法学)的分析軸に依拠しながら、基礎的・原理的考察を行った。地方分権一括法の制定により、都市計画に関する諸権限は(それが十分か否かは兎も角)段階的に基礎的自治体に委譲されてきたが、地方都市を中心に急速な人口減少社会を迎えつつある現在、日常生活環境の維持・向上や、地域社会の魅力向上・活性化を目指した活動が「地域社会の住民等による主体的・自主的・能動的取組み」に委ねられつつあり、その動きは近年益々活発化しつつある。 本年度は、こうした共助型の街づくりが今後必要不可欠となることを一応の前提としつつ、他方では、それが場合によると「一部の利害関係者集団」による「多数の専制」に陥る危険性を内在していること、地域多数者の意思の名の下に公共性が擬制され(擬似公共性)、「みんなで話し合って決めた」という建前の背後で「少数者に対する正統性なき強制」が生じる危険性を孕んでいることを前提に、「当事者自治」という美名の下で「公共性が擬制」され、正統化されない「強制」が生じることを回避するための理論的・制度的枠組条件を解明することに主眼を置いた。 本年度の研究の成果は2022年度内に論文として公表される(2022年4月に公刊予定)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、今年度においても「当事者自治的に形成された地域秩序が公法秩序に接続されるための法的枠組み条件」に関する理論的・原理的研究に取り組んでおり、研究成果の一部は、学術論文として、公表することが確定している。そのため、本研究課題の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と言える。 他方、当初予定していた研究活動のうち、本年度実施を計画していた海外(特にドイツやフランスなどの欧州諸国)の類似法制度及びその運用実態の調査、並びに、海外の大学若しくは研究者との協働シンポジウムの開催については、海外への渡航または海外からの招聘ができなかったことから、予定通りには進捗していない。当初、本年度夏を目途に、当事者自治的な地域秩序の形成(地域自治的街づくり)に「積極的な州(ドイツ・ハンブルク州等)」と、逆にこれに「消極的な州(ドイツ・バイエルン州等)」の双方を訪問し、各州の政府機関又は行政担当者にインタビューを行い、こうした「考え方の違い」が生じる根本原因を探る予定であった。またこの訪問調査に併せて、ドイツ・キール大学法学部のフローリアン・ベッカー(Florian Becker)教授との間で、「当事者自治的公法秩序形成が正統化されるための法的枠組み条件」に関し、日本又はドイツにおいて研究会を開催する予定であったが、コロナ禍の影響もあり、少なくとも今年度は見送らざるを得なかった。今年度までに得られた研究成果を基盤とする上記海外実態調査及び国際共同研究会の開催は、改めて2022年度に実施する予定であり、現在、その実現に向けて、ドイツ・キール大学と打ち合わせを行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、「当事者自治的公法秩序形成(地域自治的街づくり手法)が法的に問題なく許容されるための枠組み条件」に関する2021年度までの理論研究を基盤に、欧米諸外国(特に我が国の行政法理論体系と類似性があるドイツ)の法制度に目を向け、その運用実態を詳細に調査するとともに、当該法制度をめぐって展開されている同国の学術論議に焦点を当て、これを正確に把握・分析することを通じて、理論研究の精緻化・深化・体系化を図る予定である。具体的には、 1)当事者自治的=地域自治的な街づくりに積極的に取り組むハンブルク州やシュレスビヒ=ホルシュタイン州の法制度の概略(及び細かな相違点)を把握すると共に、こうした法制度並びに法制度の運用を積極的に評価する学術論議の動向を把握、理解、整理すること、 2)逆に一部の地権者等の多数決によって地域秩序を形成することに対して消極的なバイエルン州、並びにこうした立場を支持する学術論議の動向と背景を分析し、これを正確に把握、理解すること、 の以上2点が、本年度の研究活動の中核に位置づけられる。 上記研究を行うに当たっては、必ずしも書籍化されていない政府関係文書等を入手し、場合によると州政府等の関係者に対する質問やインタビュー等が必要になるが、コロナ禍等により同国を訪問できない可能性が残ることに鑑み、同国を訪問せずとも入手可能な範囲で資料を収集するとともに、ZOOM等のオンライン技術を用いながら、同国の関係者へのインタビュー等を試みる予定である。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、研究初年度(2020年度)にドイツ(ハンブルク州・シュレスビヒ=ホルシュタイン州・バイエルン州)等を訪問し、同国に於ける地域自治的公法秩序形成の手法(典型的には所謂BID法制)につき海外実態調査を行い、2021年度においては、ドイツ連邦共和国・キール大学法学部のフローリアン・ベッカー(Florian Becker)教授との間で、当事者自治的=地域自治的公法秩序形成に内在する危険性(擬似公共性、コンセンサスの偽装による正統化されない強制となる危険性)を回避し、それが法的に問題なく許容されるための枠組み条件に関する共同シンポジウムを開催する予定であったが、両年度とも、コロナ禍の影響により、実現できなかった。次年度使用額は、ドイツへの渡航費、ドイツからの招聘旅費、謝金として計上していたものである。海外渡航調査並びにキール大学法学部との共同研究会開催については、コロナ禍並びにウクライナ情勢を見ながら可能な限り開催する予定であり、今年度において執行する予定である。
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