2020 Fiscal Year Research-status Report
Authoritarian Regime and Constitutional Review in China
Project/Area Number |
20K01292
|
Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
石塚 迅 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (00434233)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 比較憲法 / 中国憲法 / 違憲審査制 / 憲法・法律委員会 / 立憲主義 / 憲政 / 権威主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、(1)中国における「憲法・法律委員会」への名称変更に至る憲法規定・法制度の変遷、政府・共産党の公式見解、学界の議論について詳細に整理・検討し、(2)同委員会が違憲審査(合憲性審査)機構として機能するための諸課題を考察する。かかる研究を通じて、権威主義憲法体制における違憲審査機構設置の意味、中国憲法と西欧近代立憲主義との矛盾および接合可能性について思索を深めていく。 研究初年度である2020年に世界は未曾有の感染症の流行に見舞われ、人の移動が全面的に途絶した。そのため、予定していた中国・台湾での調査・資料収集はかなわず、また、2020年6月に四川大学で開催予定であった「日中公法学シンポジウム」も中止となった。国内での移動もままならなかった。 その結果、2020年度の研究は、所属研究機関での文献・資料の収集・整理・解読が主とならざるをえなかった。研究課題の直接の対象である中国の「憲法・法律委員会」について、その変遷、制度の現状、課題に関する文献・資料を収集・整理・解読に努めたほか、それらの前提あるいは周縁となる中国の憲法原理・憲法体制、人権観と人権政策等についても、幅広く検討の射程とした。 研究成果として、小論「「公然と憲法に違反」―立憲主義、違憲審査制、中国憲法―」(『アジア研究』第66巻第3号)、小論「「小康社会」と「生存権」の論理」(『研究中国』第11号)を公表した。前者では、西欧近代立憲主義と中国憲法(思想と体制)との間の断絶と接続可能性を問い直すことをその目的とし、考察の素材として違憲審査制を取り上げた。後者では、「人権白書」で中国政府・共産党が提起した「生存権」最優先の論理について、その提起の背景、「小康社会論」との重なり、その後の展開を順次検討し、人権と法整備の分野における「小康社会」への「歩み」を省察した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、(1)中国憲法に規定された「憲法・法律委員会」をめぐる制度・学説について詳細に整理・検討し、(2)同委員会が違憲審査(合憲性審査)機構として機能するための諸課題を考察することである。2020年度と2021年度を文献・資料の収集・整理・解読の年に、2022年度を前2年間で得られた知見の総括的分析、研究成果の公表の年にそれぞれあてて、3年間で研究の完成を目指していた。 現在までの研究の進捗は残念ながらやや遅れていると評価せざるをえない。 最大の理由は、「研究実績の概要」でも記したように、COVID-19の世界的流行に伴う海外渡航・国内移動の禁止・制限で、中国・台湾での調査・資料収集、研究学術交流がほぼできなくなったことである。中国で発行される雑誌論文の全文データベースであるCNKI(中国知識資源総庫)のコンテンツ別の購入をすでにすませているために、雑誌論文の収集については不十分ながら進めることができているが、雑誌未掲載の一次档案資料、著作については、現地を訪問しないと閲覧・複写がかなわない。 もう一つ大きな要因として、中国の研究学術環境の急速な峻厳化、人権をめぐる中国と西欧諸国の対立の先鋭化である。2000年6月の『中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法』の成立は、中国・香港の法学研究者との学術交流をきわめて困難なものとした。とりわけ、研究代表者の研究課題は、憲法・人権・司法をその直接の対象としており、中国において、もともと「政治的敏感性」が比較的高かった。もちろん、この点についての懸念は研究課題の選定の段階から十分に意識はしていたが、情勢の変化は予想を超えた。最近では、中国の憲法学者との間でのメールのやりとりでさえ慎重にならざるをえない。 そうした状況下において公表した2篇の小論を本研究課題の最初の一歩と位置づけたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
COVID-19の収束が見通せない中、今後の研究の推進方法については、特段の奇策があるわけではない。当面は、所属研究機関での文献・資料の収集・整理・解読を地道に推進し、手元にある文献・資料から、中国の「憲法・法律委員会」について理解を深めていくしかないだろう。国内外の研究者との交流・意見交換もできる範囲で展開するほかない。2021年度は、5月に全国憲法研究会春季研究集会で研究発表を行うことがすでに決まっている。 COVID-19の感染状況を見極めながら、可能な限り早期に、中国・台湾での調査・資料収集、研究学術交流を開始していきたい。その際の中国の法学者との研究学術交流にあたっては、「現在までの進捗状況」で指摘した事情に鑑み、今までよりも慎重にこれを進めたい。
|
Causes of Carryover |
(理由) COVID-19の世界的流行のために、当初予定していた中国・台湾への訪問、および国内の出張を中止せざるをえなかったためである。 (使用計画) COVID-19が収束すれば、国内外の研究出張(文献・資料収集、研究交流)および外国人研究者の日本への招聘に充てられるが、そうならなければ、一部は文献・資料の購入、遠隔での通信のための機材の購入等に充て、一部はさらに繰り越しになる可能性がある。
|