2023 Fiscal Year Research-status Report
Authoritarian Regime and Constitutional Review in China
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20K01292
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
石塚 迅 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (00434233)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 比較憲法 / 中国憲法 / 違憲審査制 / 憲法・法律委員会 / 立憲主義 / 憲政 / 法治 / 緊急事態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、(1)中国における「憲法・法律委員会」への名称変更に至る憲法規定・法制度の変遷、政府・共産党の公式見解、学界の議論について詳細に整理・検討し、(2)同委員会が違憲審査(合憲性審査)機構として機能するための諸課題を考察する。かかる研究を通じて、権威主義憲法体制における違憲審査機構設置の意味、中国憲法と西欧近代立憲主義との矛盾および接合可能性について思索を深めていく。 2023年度は、二度にわたり台湾を訪問し、現地での調査・資料収集、研究者との研究学術交流を実施した。中国への訪問はかなわなかったが、2024年3月に訪日中の中国の人権派弁護士と懇談する機会をもつことができた。 中国における法を用いた国権強化と自由抑圧はますますエスカレートしており、中国の法、司法、法治が西欧のそれらとは異質のものではないか、という問題意識が西欧諸国の研究者の中であらためて急速に高まりつつある。本研究課題である「憲法・法律委員会」の意義と問題点についてもこの文脈、すなわち、中国の「法治」は異質なのかという問いにおいて考察する必要がある。この点、中国において、「憲法・法律委員会」および同委員会が担う合憲性審査に関する研究論文は漸増しており、また、中国当局は「憲法・法律委員会」の業務の法定化・活性化をアピールしているものの、中国の自賛と西欧諸国の問題意識との間には大きなギャップがあることも確かである。 小論「中国におけるCOVID-19への「法的対応」―「武漢封城」を事例として―」と小論「Rule of Law と依法治国のあいだ―中国法の予見可能性から考える―」は、そうした中国の「法治」の異質性についてそれぞれ検討している。また、異質な中国の「法治」はとうとう香港にも延伸したが、その論理について少考したのが、小論「香港人留学生逮捕の衝撃―香港国安法の域外適用と言論抑圧―」である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、(1)中国憲法に規定された「憲法・法律委員会」をめぐる制度・学説について詳細に整理・検討し、(2)同委員会が違憲審査(合憲性審査)機構として機能するための諸課題を考察することである。2020年度と2021年度を文献・資料の収集・整理・解読の年に、2022年度を前2年間で得られた知見の総括的分析、研究成果の公表の年にそれぞれあてて、3年間で研究の完成を目指していた。 しかしながら、COVID-19の世界的流行に伴う海外渡航・国内移動の禁止・制限、中国の研究学術環境の急速な峻厳化、人権をめぐる中国と西欧諸国の対立の先鋭化に基づく中国人研究者との研究学術交流の不能という二大要因によって、研究は一定の停滞を余儀なくされた。 研究の期間を一年間延長することで、COVID-19収束(終息)後の台湾への渡航が可能となり、現地での調査・資料収集、研究者との研究学術交流を実施することができた。しかしながら、中国では研究者やジャーナリスト(日本在住の者を含む)の拘束が続き、中国での調査・資料収集・研究学術交流の見通しは立たない。2023年度も、中国で発行される雑誌論文の全文データベースであるCNKI(中国知識資源総庫)のコンテンツ別の購入を行い、雑誌論文の収集・整理・解読を続けた。しかしながら、研究学術環境の峻厳化は研究論文の内容にも少なからず影響を与えており、研究論文の字面を追うだけで制度の実相に迫ることには自ずと限界がある。研究の不十分さを認識し、もどかしさを抱きつつ、得られた知見の総括的分析、研究成果の公表へと歩みを進めることになる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究については、期間再延長を申請しその承認を得た。 中国、台湾、香港および日本において、COVID-19の収束(終息)が公的に宣言されたものの、中国での研究学術交流が冬の時代を迎えている中で、今後の研究の推進方法については、特段の奇策があるわけではない。 中国での調査・資料収集が絶望的であり、中国人研究者との研究学術交流が相当困難になっているという現状を確認した上で、所属研究機関での文献・資料の収集・整理・解読を引き続き推進する。また、台湾への渡航はすでに可能となっているため、台湾での調査・資料収集、研究者との研究学術交流を実施し、可能な限り研究の不足部分を補う。中国の外から中国を観察すること、かつて権威主義体制であった台湾の経験を中国の現在と比較すること、これら作業は本研究の発展に有意義なものとなるはずである。 中国を訪問できない状況の中、中国の憲法体制をどのように研究するのか。この数年の新しい研究方法の模索は、本研究課題終了後の研究の展開にあたっても、貴重な経験となるであろうことを信じている。
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Causes of Carryover |
(理由)中国、さらには香港の研究学術環境の急速な峻厳化のために、当初可能性を模索していた中国(香港含む)への訪問、および中国在住の中国人研究者の日本への招聘を見送らざるをえなかったためである。 (使用計画)中国(香港を含む)への研究出張(文献・資料収集、研究交流)、および中国在住の中国人研究者の日本への招聘の可能性を引き続き模索したいが、現状において、それはかなわない可能性も高い。その代替として、台湾での研究調査、および台湾在住の台湾人研究者の日本への招聘を考えている。残りは文献・資料の購入、遠隔での通信のための機材の購入等に充てる。
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