2020 Fiscal Year Research-status Report
生存権の実現における「関係性」──自律を促進する構造転換の可能性
Project/Area Number |
20K01301
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
遠藤 美奈 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (40319786)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 関係性 / 生存権 / 自律の促進 / ネデルスキー / ビルシッツ |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は文献研究に注力し、次の2点を確認した。 1つめは、関係的アプローチに関わる。ネデルスキーは、他者への依存を人間の常態と理解し、個人と国家の相互依存が個人の自律の促進に資するよう、法と権利を再構想しようとする。そこでは①個人-集団間の縮減不能な緊張関係が選択やトレードオフを要請することが認識されることと、②人間を専ら分断された個人として捉え、集団の脅威を焦点化する人間観の克服が目指される。次にG.カルティエの「対話としての裁量」理論は、行政における決定権者と決定を受ける者の互酬的な関係性を指向し、裁判官が当事者の主張を上から公平に聴く「法廷モデル」ではなく、相手の立場で考える最大限の努力を払い、裁量行使を支配すべき規範と価値にかかる熟議のために、両当事者がそれぞれの立場を超えようとする「対話」を求める。ここで司法は、決定者の対話への従事いかんや、判断の対話への忠実性・応答性いかんの検討を通じて裁量統制を行う。こうした法と裁量の捉え方は個人と行政が直接対峙する福祉の現場での関係性を枠づけ、よりよい意思決定を導きうる規範理論たりうる。 2つめは、関係的アプローチと生存権理論の関係に関わる。南アフリカの憲法研究者D. ビルシッツの、すべての個人の生を相互に等しい重要性を持つものとして扱うべしとする平等命題に基づく基本的権利論は、私たちの注意を、私たち自身とその義務のみならず、この世界で共に生き、相互に作用し協力する他者にも向けさせる点でネデルスキーの企図と共鳴する。自律性のような人間の主観的な属性に依拠せず、社会における等しい重要性の承認という間主観的な理念から基本的権利を基礎づける議論は、関係的アプローチとの交錯点として生存権の基礎付け論に新しい視角をひらく。 前者の成果は紀要論文として公刊し、後者の成果は書籍に収録されるべく校正中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献研究を通じて、法理論における関係性アプローチについて理解を深めるとともに、生存権の基礎付け論とのかかわりについても新たな知見を得ることができた。その成果を2つの論文にまとめることができたため(うち1本の公刊は次年度)、概ね順調とした。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会の変化は、社会保障諸制度におけるケアワーク・ケースワークの意義に関する研究代表者のこれまでの認識に再考を迫るものであった。そのため、本年度内に開始を予定していた聞き取りはひとまずペンディングとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度も、文献研究を通じて関係的アプローチ及び生存権理論に関する理解を引き続き深める。同時に、コロナ・パンデミックの経験と社会の変化をふまえつつ、社会保障諸制度におけるケアワーク・ケースワークの意義を考察し、2020年度に実施できなかった実務家への聞き取りを、聴取内容を見極めたうえで実施したい。2021年度に予定している海外研究者との意見交換は、実施を目指しつつも、時期・方法については慎重に検討する。
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Research Products
(1 results)