2020 Fiscal Year Research-status Report
反致論の継続の背景と近時の反致へのニーズに関する研究
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20K01308
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
岩本 学 富山大学, 学術研究部社会科学系, 准教授 (70552511)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国際私法 / 反致 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,各国の反致規定の状況について,Basedow et al., Encyclopedia of Private International Law(2017)を出発点としつつ,基礎資料の作成を行った。そして,同書発刊以降の各国の国際私法の改正についても調査し(現時点では,クロアチアとベルギーの改正についてフォローしている),上記基礎資料に追加を行った。併せて年度の後半では,わが国では先行研究が乏しい,1880年以前の反致ないしこれに準ずる処理をした裁判例及び若干の学説の議論について調査し,次年度以降の検討の基礎とした。 成果報告としては,上記の各国反致規定の調査の過程で,ナイジェリアについて前掲書及び,Okoli et al., Private International Law In Nigeria(2020)等で調査していたところ,2020年5月に,ナイジェリア法からの反致を認めうる事案であるが裁判所がこれに沈黙している裁判がわが国で下されていたことを把握したため,いわゆる二重反致の可能性も含め本裁判を分析し,判例研究として「通則法28条の適用の結果として嫡出推定が重複した際の処理方法を示した事例」(渉外判例研究会,2020年8月)と題する個別報告を行った。この報告原稿をベースとしたものは,報告と同タイトルの評釈(ジュリスト1551号,2020年11月)として年度内に公表された。また,本裁判の分析の過程で,反致を利用することは渉外事案における”血統の混乱”の収束にどれほどの効果があるのか,といった論点を見いだしたため,追加的にこの点も検討し,その一部を「血統の混乱(turbatio sanguinis)の回避を巡る近時の展開と国際私法」(富大経済論集66巻1・2・3号1頁以下,2020年12月)とのタイトルの論文において年度内に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の計画においては,各国における反致制度の存在・不存在の把握に努めることを研究実施計画の主眼としていたが,この点については,本研究費で購入した図書や図書館間の相互貸借・複写などの利用により収集した資料の下,計画に沿った作業ができた。しかし,加えて計画していた19世紀末までの反致の史的展開の調査については,調査過程で,1880年から1900年までにおいて,英独伊仏白蘭などの欧州各国において相当量の裁判例,議論があることが判明した。この20年間のものについては年度を超えて現在も調査中であることから,このような評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
次のステップとしては,20世紀前半で一定の支持を世界的に集めていたと思われる反致否定論について,1910年のLorenzenの評価からそれが主流になっていく米国の展開や,欧州における20世紀での判例・学説の主張などを精査することで,その強度を明らかにするを軸とする。それを踏まえた上で,EU国際私法及び米国抵触法における21世紀での反致の議論を確認し,反致の現代的ニーズの分析とそのニーズへの対応の検討へと移っていく予定である。
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Causes of Carryover |
Covid-19の影響で,国内外で予定していた出張がすべて取りやめとなったことにより,旅費予算の執行ができなかったことが主たる要因といえる。今年度にあっても,未だ予断を許さないことから,次年度使用額の執行に際しては,今後のCovid-19の状況及び学会などの開催状況を見極めて判断したい。
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Research Products
(4 results)