2020 Fiscal Year Research-status Report
外国の国家機関に対する国家の管轄権行使に関する国際法の研究
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20K01310
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
水島 朋則 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (60434916)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国際法 / 外国の国家機関 / 管轄権 / 管轄権免除 / 国際刑事裁判所 / 条約法 / 駐留外国軍隊 / 日米地位協定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、外国の国家機関に対する国家の管轄権行使をめぐる問題について国際法の観点から分析を行うことにより、これまで研究代表者が行ってきた「国家の管轄権行使に関する国際法」の研究を補完し、その全体的かつ現代的な構造を解明することを目的とするものである。従来の研究とは異なり、外国の元首や外交官、駐留軍隊構成員等の機関ごとに分けてそれぞれに対する国家の管轄権行使ないしそれぞれの管轄権免除の問題を分析するのではなく、「外国の国家機関の扱いに関する国際法」の観点から、それらを包括的・総合的に検討しようとする点に、本研究の主な学術的独自性と創造性がある。本研究を通して、外国の国家機関に対する国家の管轄権行使を現代の国際法はどのように規制しているのかを明らかにし、そのような国際法の規制の下で、望ましい国家の管轄権行使のあり方を探求し、提示することを目指す。 4か年での実施を予定している本研究の1年目である令和2年度は、前年度までの4年間に実施した研究(国家と国際機構の管轄権の競合に関する国際法研究)と本研究とをつなぐものとして、スーダンの国家機関(大統領)の地位にあったバシルに対する国家および国際機構の管轄権行使のあり方に関わる国際刑事裁判所(ICC)上訴裁判部2019年5月6日判決を素材として、国際法上の刑事管轄権免除をめぐる条約法の問題について考察を行い、日本語による共著の一部として公表した。また、外国の国家機関(駐留米軍)の活動ないし管轄権行使と国家(接受国=日本)の管轄権行使とが連続的に行われた稀な事案(米軍基地内で米軍が身柄拘束した者の日本による身柄の引受と身柄拘束の継続)に関する福岡高裁那覇支部2019年10月7日判決も、国家の管轄権行使の対象となり得る外国の国家機関の活動に関わる問題を提起しており、日米地位協定等の国際法の観点から判例評釈をまとめた(令和3年度に公表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記したとおり、本研究の成果として論文1本と判例評釈1本を公表することができた。また、新型コロナウイルス感染症に起因する損害の賠償を求めて、国内裁判所で外国(中国)やその国家機関を訴える裁判が特にアメリカで起こされており、論文として研究成果をまとめるには至っていないものの、そのような訴訟について外国の国家機関に対する国家の管轄権行使という観点から検討する作業も進めており、その新型コロナウイルス感染症の関係で資料収集等を思うように行うことができない状況ではあるが、その点を考慮しても研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症損害賠償請求事件を素材とする研究を論文としてまとめて公表するとともに、外国の国家機関に対する国家の管轄権行使に関する国際法問題を提起するものと捉えることができる対日本慰安婦訴訟における韓国国内裁判所の判決等を素材とする口頭報告を、国際法学会の研究大会で行い(2021年9月、英語)、そこで得られるであろう他の研究者からのコメントや批判をふまえて論文にまとめる。
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Causes of Carryover |
調査・資料収集・研究成果発表のための国内および外国旅費として470,000円を見込んでいたが、新型コロナウイルス感染症に伴う国内外の移動制限のため、研究を実施する上で必要となる旅行をほとんどまったく行うことができず、次年度使用額が生じた。次年度は、新型コロナウイルス感染症の状況が改善され次第、必要な旅行を行うために助成金を使用することを計画しているが、他方で、助成金応募時は所属研究機関から割り当てられている個人研究室で研究を行うことを基本的には予定していたところ、次年度においても、自宅等での研究が所属研究機関によっても推奨されること(あるいは、そうせざるを得ないこと)が考えられ、より効果的に自宅等で研究を実施するために、持ち運びに便利なコンピュータを購入することも検討している。
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