2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K01324
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
河合 塁 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (70708891)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 大規模自然災害 / 労働法 / 受援 / 休業補償 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的の1つは、大規模自然災害発生段階における様々な労働問題を、理論面から法的に分析するということにある。本年度は、そのような法的問題のうち、特に大規模自然災害が発生し、就労が困難となった場合の賃金や補償の問題に着目し、白門72号に「大規模自然災害と休業・補償に関する労働法的問題」、季刊労働法271号に「コロナ禍での休業と補償・賃金に関する一考察 : 大規模自然災害との比較を通じて」、労働と経済1653号に「基地労働者から見た、日本の『戦後』と『災後』と『今後』(16)基地労働とコロナ拡大問題」と題する論稿をそれぞれ寄稿した。特に2本目・3本目は、本研究申請時には全く想定されていなかったコロナ禍下での問題と、本研究での検討課題とを照らしながらの分析を行った。こちらは概ね計画通りといえる。 次の目的の1つは、大規模自然災害復旧段階における労働問題として、特に地方自治体における被災地派遣や受援に伴い、現場でどのような運用がなされ、どのような課題があると当事者が考えているのかを洗い出すことがある。こちらについては、想定外のコロナ禍下のため、調査予定が大幅に狂ってしまったものの、事前に質問事項を送ってヒアリングを短時間にする(後日疑問点があれば、メール等で照会する)等の対応を行い、年度内においては、岩手県大船渡市、釜石市、沖縄県那覇市、宜野湾市、大分県臼杵市のほか、宮古市職員労働組合、岡山県自治労本部といった労働組合を対象に、ヒアリングを行った。また、同ヒアリングの趣旨等については、2021年3月の沖縄大学経法商学部紀要第2号に「大規模自然災害と自治体職員の労働環境に関する調査(Ⅰ)」として寄稿している。 なお本研究については、地元マスコミにも関心を持っていただき、2020年9月16日付「岩手日報」紙においても大きく取り上げられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的の1つである、大規模自然災害発生段階における様々な労働問題を、理論面から法的に分析するというところに関しては、2020年度に3本の論考を公表したほか、2021年度には、米軍基地労働者との問題での単行本(共同執筆)の中で、大規模自然災害と労働問題についての寄稿・出版が決定している。理論的な問題をどこまで網羅するかという問題はあるが、こちらは当初の予定通りおおむね順調に推移していると考えられる。 次に、もう1つの本研究の目的である、大規模自然災害復旧段階における労働問題として、特に地方自治体における被災地派遣や受援に伴い、現場でどのような運用がなされ、どのような課題があると当事者が考えているのかの洗い出しに関しては、上述のとおり、想定外のコロナ禍下のため、ヒアリング等の計画・予定が非常に立てづらいものとなってしまった。オンラインやメール等での調査も物理的に不可能ではないものの、これまでにあまりない調査であるがゆえに、自治体によっては、「法違反のあら捜しがしたいのか」という感触で警戒されるところもある。このため、直接伺って趣旨を説明することが協力を得るためには不可欠という部分があり、その点では厳しい部分もあるが、各自治体と関連の深い調査協力者(大槻忍・元連合岩手副事務局長、東島日出夫・桐蔭横浜大学講師等)の協力を得て、上記のヒアリングを実施できており、2021年度についても、すでに千葉県館山市を訪問調査ずみであるほか、福岡県北九州市に依頼中である。コロナ禍のため、今後の進捗には大きく不透明な部分があるが、一応現時点としては、おおむね順調に進捗していると評価しえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、大規模自然災害に関する労働法的問題に関する現行の労働法解釈を整理し、災害発生時における就労命令従事義務や、就労命令拒否の権利など、何か各論的な問題についても、何らかの形で論考を発表しようと考えている。 また、自治体に対する職員派遣等に関するヒアリングに関しては、福岡県北九州市のほか、2~3の自治体調査を実施したいと考えている。 研究計画については大きな変更は必要ないと考えているが、ただし、後者のヒアリング調査に関しては、新型コロナウイルス感染症拡大の状況が読めないため、2020年度以上の難航が予想される。その場合は、前者の理論的研究を先に進めるなど柔軟に対応することとしたい。
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Causes of Carryover |
2020年度については、特にヒアリング調査が当初想定していたよりも順調に進められなかったことから、調査そのものを2021年度・2022年度にシフトさせる必要が生じた。また、研究協力者の招へい等についても十分に実施できなかった。このことが、次年度使用額が生じた理由の最たるものである。 この分は2021年度及び2022年度の調査において実施したいと考えている。
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Research Products
(4 results)