2020 Fiscal Year Research-status Report
デジタル化時代の労働者の損害賠償責任、能力不足や病気等による解雇等の日独比較研究
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20K01331
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
細谷 越史 香川大学, 法学部, 教授 (60368389)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | デジタル化 / 損害賠償責任 / 解雇 / 能力不足 / 勤務成績不良 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、第4次産業革命による労働環境のデジタル化、成果主義的人事管理の強化や労働力人口の高齢化が労働法に及ぼす影響を考察した上で、労働法は具体的な原理・原則に基づく明確なルールをどのように確立しうるかをドイツ法との比較から解明することを目的として実施されてきた。 今年度は、まず職場への情報技術等の導入が労働者の使用者に対する損害賠償責任に及ぼす影響を考慮して、経営リスクの分配原則や生存権保障等に基づく明確な責任制限の基準を解明するよう試みた。その成果を細谷越史「損害を被った第三者に賠償した労働者から使用者に対する逆求償権が認められた事例」『新・判例解説Watch Vol. 27』、日本評論社、257頁~260頁、2020年(共著)として公表した。 また、IT機器を用いた就労可能性、IT向け教育訓練、デジタル機器による労務監視の広がりを考慮し、能力不足等による解雇の規制を、比例原則及び予測原則等に依拠して再構築すべく研究を進めた。その成果を、細谷越史「労働者の勤務成績不良・能力不足をめぐる解雇法理の再検討―近年の裁判例の展開をふまえて―」香川法学40巻3・4号31頁~81頁、2021年(単著)、細谷越史”Neue Entwicklungen des Kuendigungsrechts im Bereicht der "Low-Performance" in Japan”、Recht der internationalen Wirtschaft 2021、7号、Deutscher Fachverlag GmbH、Fachmedien Recht und Wirtschaft(原稿提出と校正済み)2021年発行予定として発表した。 この他、細谷越史「[第12章]雑則 労働基準法第105条の2から第113条まで」西谷敏・野田進・和田肇編『新基本法コンメンタール 労働基準法・労働契約法〔第2版〕』所収、日本評論社、309頁~315頁、2020年(共著)を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、デジタル化による自由度の高い労働者(ホーム・モバイルオフィス、クラウドワーク等)の損害賠償責任はいかに制限されるか、業務用又は私用のPC、携帯電話等のIT機器を業務中又は私生活上利用する際に、過失等により使用者に損害を与えた場合の責任制限の基準を解明しようと試みた。特に日本法の研究成果として、細谷越史「損害を被った第三者に賠償した労働者から使用者に対する逆求償権が認められた事例」『新・判例解説Watch Vol. 27』、日本評論社、257頁~260頁、2020年(共著)として公表することができた。 また、労働者の労働義務は主観的又は客観的に規定されるか、比例原則や予測原則によれば解雇はどの程度の能力不足の場合に許されるか、成績不良の要因たりうるデジタル機器の不具合等をどう評価するか、解雇回避のための是正警告やPIPはいかなる条件を要するか、いかなる教育訓練や配転が求められるか、仕事の質量の客観的な評価以外に、人事考課、分析ソフト等による包括的な仕事の監視は成績不良を証明しうるか、正社員と専門職という採用形態の違いは解雇規制に影響を及ぼすか等を解明し、とくに日本法の研究成果として、細谷越史「労働者の勤務成績不良・能力不足をめぐる解雇法理の再検討―近年の裁判例の展開をふまえて―」香川法学40巻3・4号31頁~81頁、2021年(単著)および細谷越史”Neue Entwicklungen des Kuendigungsrechts im Bereicht der "Low-Performance" in Japan”、Recht der internationalen Wirtschaft 2021、7号、Deutscher Fachverlag GmbH、Fachmedien Recht und Wirtschaft、(原稿提出と校正済み)2021年発行予定を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、とくにドイツ解雇法において、労働者の労働義務は主観的又は客観的に規定されるか、比例原則や予測原則によれば解雇はどの程度の能力不足の場合に許されるのか、成績不良の要因たりうるデジタル機器の不具合等をどう評価するか、解雇回避のための是正警告はいかなる条件を要するか、いかなる教育訓練や配転が求められるか、仕事の質量の客観的な評価以外に、人事考課、分析ソフト等による包括的な仕事の監視は成績不良を証明しうるか等を解明し、翻訳および論文として公表する予定である。 また、今年度の損害賠償責任に関する研究を基礎として、それをさらに継続するとともに、損害賠償予定や違約金の規制(労働基準法16条)にも研究範囲を拡大し、その研究成果を公表する計画である。 さらに、デジタル化やコロナ禍のもとで重要性を増す労働契約法理、とくに配転や出向法理にも再検討を加え、その研究を公表する予定である。 これに加えて、コロナ禍で国際的な移動が困難である中、デジタル会議システムを利用して、とくにドイツの研究者や実務家との間で労働契約法理をテーマとして研究会を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた大きな理由としては、今年度はコロナ禍が続いたため、当初計画していた対面での学会や研究会等がほとんど中止となり、リモートでの開催に切り替わったため、こうした学会、研究会等に参加するための旅費の支出がほとんど生じなかったことをあげることができる。 次年度においては、引き続き本比較法研究をリモート技術などもうまく活用して鋭意進めていく計画である。また、次年度においても新型コロナウイルスの感染拡大状況などからして、対面での学会や研究会等への参加が困難な状況が続くとすれば、旅費の一部を物品費として活用することで、コロナ危機の下で新たに発生してきている諸課題をめぐる文献等の収集やデータベースの契約締結などに役立てる予定である。
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Research Products
(4 results)