2020 Fiscal Year Research-status Report
多様化する働き方に対応する被用者年金保険法の法理論的構造
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20K01332
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
丸谷 浩介 九州大学, 法学研究院, 教授 (10310020)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 働き方 / 年金 / 求職者 / 雇用保険 / 新型コロナウイルス感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の最終的な目標は,働き方の多様化を踏まえた新たな高齢期所得保障法制の規範理論を構築し,社会保障法学に基礎理論の新たな視座を提供して新たな分析枠組みを提示することである。このために,①現代の社会保障法学における働くことの意義を規範的に問い直す必要がある。その準備作業として②社会保障法学における「(雇用労働に限定されない)働くこと」がどのような意義を持っているかを,制度横断的に,場面横断的に確認する。そして③戦後社会保障法学の分析枠組みとして把握してきた「働くこと=雇用労働」が「働き方の多化」に応じてどのような対応が迫られているかを把握し,④社会保障法制が働き方の多様化に抗すべきか,あるいは,適用すべきかを論じ,⑤そこに通底する法的に保護すべき価値原理を見出す。それによって⑥価値の相克と,規範の価値構造を踏まえて,新たな社会保障法学における規範理論を構築するものである。 本年度は働き方の多様化に伴う社会保障法の課題を検討した。とりわけ2020年度は新型コロナウイルスの拡大によりこの分野は多大な影響を受け,働き方の多様化が促進するとともに社会保障法の将来像を見つめ直す契機となった。他方で予定していた現地調査を行うことができず,もっぱら文献調査研究に留まったことはやむを得ないことであった。上記目的とのかかわりでは,②の社会保障法における働くことの意義について検討を加え,③の枠組み再検討とのかかわりでは「セーフティネット」概念の検討を行った。しかし④以降については緒に就いたばかりであり,今後の研究課題となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現地調査等を行うことができなかったこと,政策そのものが新型コロナウイルス感染症の影響を受けて変革を余儀なくされていることなどから,落ち着いて検討を進めるには困難な状況もあった。 他方でこのような状況を正確に把握すべく,日英の動きとその議論をトレースすることに努め,いくつかの論文を公表することができた。 次年度以降は感染拡大状況にとらわれない研究を遂行しなければならない。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度はイギリスの研究を進めることが最大の課題である。すなわち,イギリスにおける働き方の多様化がどのように進行しているのか,それがイギリス社会保障法(政策)にいかなる影響を及ぼしているのかを見極めることが重要になる。 これとともに,イギリスの公的年金が大幅な改革を行ってから7年経過することから,この間の議論,動きを正確に把握する必要性が増している。イギリスの公的年金改革は報酬比例年金を廃止して,より低所得者へ手厚い給付をなすものであるが,このような強力な所得再分配機能が社会保障を支える連帯意識を変容させる(あるいは議論を噴出させる)契機になることは相違なく,これを理解することが日本の年金保険法研究にとって必須であると思われる。
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Causes of Carryover |
海外調査と国内調査研究を予定していたが,新型コロナウイルス感染症の影響によりそれらがすべて不可能になった。その代わりいくつかの情報機器を更新あるいは追加することになった。 次年度は新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえつつ,調査等を再開することができればそのように行う。不可能あるいは制限的状況であれば文献調査研究を進めるための資料収集を行うことで研究を遂行することになる。
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